ミトコンドリアの呼吸機能不全はミトコンドリア病と密接に関連
ミトコンドリア病の新たな治療法の開発につながる可能性がある物質が見つかりました。トリプトリンアミド(tryptolinamide)、略して「TLAM」と呼ばれる低分子化合物です。
体の各細胞内に存在するミトコンドリアは、酸素呼吸を通してエネルギーをつくるために重要なはたらきをしています。ミトコンドリアの中には、「呼吸鎖複合体」と呼ばれる装置があり、この複合体で、生命活動に必要なエネルギーがつくられています。
また、ミトコンドリアは、細胞核のDNAとは独立した、小さな「ミトコンドリアDNA(mtDNA)」を持っているのですが、mtDNAには、細胞の呼吸機能に不可欠なタンパク質をつくる情報が刻まれています。そのため、mtDNAの変異は、呼吸機能の異常につながり、ミトコンドリア病の発症と密接に関連することが知られています。
TLAMを発見し、患者さん細胞で呼吸機能回復の仕組みも明らかに
今回、理化学研究所と国立精神・神経医療研究センターの研究グループは、理化学研究所の「理研NPDepo化合物ライブラリー」という、天然由来化合物バンクの中から、ミトコンドリアの呼吸機能を活性化する物質を探しました。その結果、TLAMに活性化効果があることを発見しました。
さらに、ミトコンドリア病患者さんの細胞由来のiPS細胞などを用いた実験から、TLAMは呼吸に関わる「PFK1」という酵素(解糖系律速酵素)を阻害することで、細胞内の代謝を変化させ、mtDNAの変異によって低下したミトコンドリアの呼吸機能を回復させる、という仕組みも明らかになりました。
「ミトコンドリアの機能低下は、ミトコンドリア病だけでなく、老化やがん、神経変性疾患を含むさまざまな疾患に関連しているため、今回の成果が足掛かりとなって、ヒトの健康寿命の延伸に資する新しい方法の開発につながることが期待されます」と、研究グループは述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)