NGLY1欠損症、有効な遺伝子治療法が開発できる可能性

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. NGLY1欠損症は患者さんの数が世界で100人以下、全身に重篤な症状
  2. 病態モデル動物の脳に、正常なヒトNGLY1遺伝子を導入する遺伝子治療実験を実施
  3. その結果、運動機能が著しく改善、脳が治療の有力な標的になり得ると判明

NGLY1欠損症モデル動物に遺伝子治療を行い、改善がみられるかを検証

理化学研究所と武田薬品工業株式会社からなる研究グループは、「NGLY1欠損症」の治療法開発を目指し、2017年から共同研究を進めています。今回、研究グループは、NGLY1欠損症の病態モデル動物(Ngly1-KOラット)の脳に、ヒトの正常なNGLY1遺伝子を導入することで、運動機能が劇的に改善することを明らかにしました。

NGLY1欠損症は、2012年にヒトで発見された、NGLY1遺伝子の変異で起こる遺伝性疾患。患者さんの数は世界中で100人以下と、非常にまれな疾患です。その症状は発育不全、四肢の筋力低下、不随意運動、てんかん、脳波異常、新生児の肝機能障害、無涙症、背骨の彎曲(わんきょく)など全身性で多岐にわたります。

研究グループはこれまでの研究で既に、NGLY1欠損症患者さんと類似した症状を示す動物モデル、Ngly1-KOラットを作製していました。そして今回の研究では、Ngly1-KOラットの脳に、正常なヒトのNGLY1遺伝子を導入する「遺伝子治療実験」を行うことで、さまざまな症状に改善が見られるかどうかを調べました。

1回の遺伝子治療でモデル動物の運動機能が劇的に改善

その結果、脳内に正常な遺伝子を1回導入しただけで、大脳や小脳、脊髄といった中枢神経系の器官で、導入されたNGLY1遺伝子が働いていることが確認されるとともに、運動機能の劇的な改善が見られました。これにより、Ngly1-KOラットは、NGLY1欠損症の病態モデルであるだけでなく、治療法を開発していくためのモデル動物としても有用であること、また、まだ動物モデルの段階ですが、NGLY1欠損症の症状は治療により回復できる可能性があることが判明しました。さらに、NGLY1欠損症でみられる運動機能障害の少なくとも一部は、中枢神経系の異常によって起きているものであり、脳を含めた中枢神経系が治療の有力な標的となり得ることもわかりました。

研究グループは、「今後もさらに患者団体であるGrace Science Foundationとの連携を深め、NGLY1欠損症の病態解明や治療法開発のための研究を加速していくことを目指します」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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