肺胞蛋白症の発症リスク遺伝子、免疫に関わる「HLA領域」で特定

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 肺胞蛋白症のゲノムワイド関連解析研究(GWAS)を世界で初めて実施
  2. 発症リスク遺伝子がHLA領域の遺伝子変異であることを突き止めた
  3. この遺伝子変異のために肺胞マクロファージを攻撃する抗体が増加すると確認

困難だった肺胞蛋白症の遺伝子解析を実現

大阪大学、愛知医科大学、近畿中央呼吸器センターの共同研究グループは、肺胞に異常なタンパク質の貯留が生じる希少疾患「肺胞蛋白症」について、ゲノムワイド関連解析研究(GWAS)という大規模な遺伝子解析を世界で初めて実施しました。その結果、発症リスク遺伝子がHLA(ヒト白血病抗原)領域に存在するHLA-DRB1という部分の変異にあることがわかりました。

自己免疫性肺胞蛋白症は、肺胞の内部に「サーファクタント」と呼ばれる物質が貯まり、高度な呼吸不全を引き起こしてしまう病気で、日本においては100万人に6~7人という頻度で発生する希少疾患です。

かねて日本人を中心とした研究グループが、肺胞蛋白症の病態の鍵となる存在として「抗GM-CSF自己抗体」の出現があることを確認していましたが、その原因ははっきりわかっていませんでした。GM-CSFは免疫細胞のマクロファージなどが分泌するサイトカイン(免疫の作用に関わる物質)です。この異常な抗体の生成に関連する発症リスク遺伝子の特定が課題となっていましたが、肺胞蛋白症の患者さんがとても少ないことから、病気の発症と遺伝子変異との関連を分析することが困難となっていました。

今回、研究グループは、冒頭の通り、世界で初めて肺胞蛋白症患者さんを対象としたGWASを実施。具体的には、肺胞蛋白症患者さんと対照者のDNAの一塩基多型(SNP)を網羅的に解析しました。双方のゲノムを比較した結果、肺胞蛋白症の発症リスクと関連性の高い変異部位として、6番染色体にあるHLA領域の遺伝子変異を見出しました。

最も強いリスクを有すると考えられたHLA遺伝子型は「HLA-DRB1*08:03」というタイプで、この遺伝子型の人がもつ免疫機能の特徴から、抗GM-CSF自己抗体の量が増加しやすくなることも確認できました。

HLA-DRB1*08:03は、アジア人特異的に存在する遺伝子型であると知られており、バセドウ病、原発性胆汁性胆管炎、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫性疾患との関連が報告されていました。

治療選択や個別化医療への応用を想定

研究グループでは、HLA-DRB1*08:03を持つ人ではGM-CSFをはじめとした自己由来物質が抗原提示されやすくなることで、免疫反応が起きて自己抗体が誘導され、この抗体によって肺胞マクロファージが攻撃されると想定。結果として、サーファクタントの異常な貯留につながるという仮説を考えています。

自己免疫性肺胞蛋白症は、自然治癒する場合もある一方で、重症呼吸不全で在宅酸素療法を要するケースもあります。治療法としては、全肺洗浄法やGM-CSF吸入法などが利用可能となっており、研究グループは、今回の研究成果によってリスク遺伝子型に基づいた病態予測や治療選択に生かす個別化医療への応用を実現していきたいと考えを示しています。(遺伝性疾患プラス編集部 協力:ステラ・メディックス)

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