患者さんの細胞から、研究に使える「筋ジストロフィーの骨格筋細胞」を作製
京都大学の研究グループは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの患者さんの細胞から「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」を作って骨格筋細胞に分化させ、患者さんに特徴的に見られる筋疲労に似た筋収縮力低下の再現に成功したことを発表しました。
研究グループは、この細胞を用いることで筋収縮力低下を改善する物質(化合物)の探索に取り組み、症状の改善につながる化合物も特定しました。今後、薬の候補を拾い上げるためのスクリーニング研究を本格化して、病気の治療薬の開発につなげたい考えを示しています。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、「ジストロフィン」と呼ばれるタンパク質が欠損することで発症する筋肉の病気です。デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬としてはステロイド製剤が主に使われており、病気の進行を2~3年遅らせることができますが、根本的な治癒につながらないのが課題になっています。
そこで患者さんの細胞から作ったiPS細胞を用いることで、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの筋肉の細胞を作るなどして病気のメカニズムの分析や薬の開発を試みる研究が活発になりつつあります。
このたび京都大学の研究グループは患者さんの細胞を元としてiPS細胞を作った上で骨格筋細胞に分化させ、骨格筋の機能に着目した解析方法の開発を進めました。
細胞を使って筋収縮力低下の程度を改善する薬の候補を探る
こうして成功したのが、病気に伴う筋収縮力低下をiPS細胞から分化させた骨格筋細胞で再現したことでした。具体的には分化させた骨格筋細胞を柔らかいコラーゲンゲルの上で培養した上で電気刺激を加える方法により、筋細胞を成熟させて実際の筋肉に近い状態にできることを確認しました。また、成熟させた筋細胞にさらに電気刺激を加えることによって、筋肉の収縮機能の程度がどれくらいかを評価できるとわかりました。
研究グループが確かめたところ、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの患者さん由来の骨格筋細胞では17~20日の間に収縮機能が低下することはなかったものの、1週間以上にわたって連続で収縮させた場合には収縮機能が低下することが確認できました。研究グループによると、こうした筋収縮力低下は、病気の患者さんに特徴的に見られる症状の一つである筋疲労の蓄積と似た現象であり、症状を再現できたものと考えられました。
研究グループはこの細胞の筋収縮力低下を防ぐ効果をもつ物質があるかどうか、約30種類の化合物をそれぞれ細胞に加えて確かめました。もしも改善できれば薬として応用できる可能性があると考えられます。約30種類の化合物とは、既に医療現場で治療に使われているステロイド製剤を含めたさまざまな薬剤です。結果として、ステロイド製剤では筋収縮力低下の改善は見られなかったものの、筋弛緩剤の一つであるダントロレンを使ったときには筋収縮力の低下が改善するとわかりました。
さらに研究グループは細胞を刺激する方法を改善し、より多数の化合物の効果を調べられるようにしています。もともと電気刺激を用いており、この場合には1つの細胞培養皿で6つのパターンについて同時に調べられたのですが、光遺伝学と呼ばれる技術を用いて光刺激による刺激にすることで1つの培養皿で96パターンを同時に調べられるようにしました。さらに384パターンを同時に調べる方法に改良可能としています。iPS細胞を使った研究法を確立したことで、今後、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの創薬を加速できる可能性がありそうです。(遺伝性疾患プラス編集部 協力:ステラ・メディックス)