血液脳関門を通過できる新たな核酸医薬の開発に成功、神経難病への応用に期待

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 独自開発の「ヘテロ核酸医薬」にコレステロールを結合させ血液脳関門の通過を可能に
  2. 静脈内投与や皮下投与により中枢神経の細胞内の標的RNAを抑えることを確認
  3. 神経変性疾患をはじめとする脳の多くの病気の治療に応用できる可能性

核酸医薬に脂質を結合させて効果を確かめる

東京医科歯科大学の研究グループは、DNARNAを対になるようにした独自開発の核酸医薬「DNA/RNAヘテロ2本鎖核酸(HDO)」にコレステロールを結合させることで血液脳関門の通過を可能としたことを発表しました。

パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患をはじめとした中枢神経疾患は脳内の病気となりますが、その治療のために薬を脳の中に届けるのは簡単ではありません。中枢神経が集まる脳の組織とそれに接している血管との間には「血液脳関門(BBB)」と呼ばれるバリアが存在しているからです。脳に異物が侵入しないように守られる仕組みになり、このため薬も血液から脳の中に入りづらくなっています。

脳の病気を治療する薬として注目されている核酸医薬も血液脳関門を通りにくい性質を持つと知られています。これまでに開発されてきた薬は、脊髄から脳へと循環している「髄腔」(背骨の中を通っている髄液の通り道)に投与する方法が取られていました。これでも脳内に薬を届けるには十分ではないと見られています。さらに、点滴などで静脈内注射をする方法ではなおさら薬を届けるのは困難です。

研究グループはDNA/RNAヘテロ2本鎖核酸に脂質を人工的に結合させることで血液脳関門を通過できると考えました。血液脳関門は選ばれた栄養素を取り込む仕組みを持ちます。そこで、神経細胞や細胞膜の重要な構成成分の一つである脂質を使うことで、血液脳関門を通過できる性質を持たせられると想定しました。

静脈内投与や皮下投与による効果を確認

こうしてわかったのが、脂質のうちコレステロールを結合させたDNA/RNAヘテロ2本鎖核酸は、血液脳関門を通過するということです。通常ならば血液脳関門を通過しないものが、コレステロールが付くことで通過して中枢神経に届いたのです。実験に使った核酸医薬は細胞の中にある「RNA」を減らす効果を持ち、核酸医薬とコレステロールを結合させた薬品を使うと脳内のRNAを押さえる効果を発揮しました。

こうした効果は、薬を血液内に注射する静脈内投与を行った場合のほか、皮膚の下に注射する皮下投与でも現れました。将来的には病気を患う本人が自分で皮下投与できる可能性が考えられ、治療の利便性につながる可能性があります。

今後、さまざまな脳の病気に応用できる可能性もあるようです。研究グループが挙げる病気には、神経変性疾患のほか、難治性てんかん、多発性硬化症、脳梗塞、プリオン病、新型コロナウイルス感染症による脳炎、うつ病などの病気があります。(遺伝性疾患プラス編集部 協力:ステラ・メディックス)

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