Dyrk2遺伝子を欠損させたマウスを作製
東京慈恵会医科大学を中心とした研究グループは、VATER症候群に類似した病態を持つ新規のモデルマウスの作製に成功したと発表しました。
国の指定難病であるVATER症候群は、多発先天性奇形症候群の一つで、椎体異常(V)、肛門奇形(A)、気管食道瘻(TE)、橈骨奇形および腎奇形(R)という5つの徴候の頭文字を取って命名された病気です。心奇形のC、四肢奇形のLを含めてVACTERL連合と呼ばれることもあります。
この病気は発症メカニズムや効果的な治療法がまだ確立されておらず、今のところ外科的な手術やリハビリなどの対症療法しか対応手段がありません。生涯にわたって合併症に対応した治療やリハビリを行う必要があります。VATER症候群の発症メカニズムの解明や治療法開発のために、病態を再現したモデルマウスの作製が必要とされてきました。
今回、研究グループはDyrk2という遺伝子の機能を解析。ゲノム編集という研究手法によって人工的にこの遺伝子を欠損させたマウスを作製し、このマウスの特徴を解析していました。すると、このマウスの特徴がVATER症候群と類似していたということです。
出生前の特徴がVATER症候群と類似
作製したDyrk2欠損マウスの特徴を解析したところ、従来のどのモデルマウスよりもVATER症候群の病態と類似した特徴を持つことを新たに発見しました。Dyrk2欠損マウスは出生直後に呼吸できずに死亡に至り、研究グループが出生前の胎生期の解析をしたところ、VATERの特徴である椎体異常、肛門奇形、心血管異常、気管食道異常、腎奇形、橈骨奇形、四肢奇形、肺形成異常が確認されました。ここから、VATER症候群の病態に似た特徴を備えたモデルマウスであると判断しました。
さらに、研究グループはDyrk2欠損マウスの呼吸ができなくなる原因を明らかにするために研究を進めました。こうしてDyrk2が肺の内部の気管内側に存在している細胞で機能していることを確認し、胎生期に肺を作るために必要になる可能性が考えられました。今後、Dyrk2欠損モデルマウスの研究を進めることで、VATER症候群の病態や発症メカニズムの解明につながることが期待されています。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)