ヘルマンスキー・パドラック症候群、患者さん由来のiPS細胞で病気の仕組みを一部解明

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. ヘルマンスキー・パドラック症候群で起こる間質性肺炎の病態を患者さん由来のiPS細胞で再現
  2. iPS細胞から肺に関わる細胞を作り「枝状構造の減少」「ミトコンドリア機能低下」を発見
  3. 発症メカニズムの解明や治療薬の開発につながる可能性

間質性肺炎を引き起こす遺伝性疾患

京都大学を中心とした研究グループは、ヘルマンスキー・パドラック症候群(HPS)の患者さん由来のiPS細胞から肺の上皮細胞を作製し、この疾患で起こる間質性肺炎の病態を探索しました。その結果として、肺の元になる肺芽の細胞で通常は見られる枝状構造が減少していることや、肺胞上皮細胞においてエネルギー産生に重要なミトコンドリアの機能低下が起こっていることを発見しました。

HPSは、白皮症や視覚障害、出血時間の延長を特徴とする遺伝性疾患です。その原因になる遺伝子によって複数の型があり、重症度も異なります。中でもHPS1型の患者さんはHPSの中で人数が最も多く、重篤な間質性肺炎を起こすことが知られています。ヒトと実験動物の肺には種差があるため、ヒトの細胞で病気の原因を調べることが重要であると考えられてきました。

もっとも、患者さんから肺胞上皮細胞を採取することは難しく、機能を維持したまま長期間培養することが困難で研究が進んでいませんでした。研究グループは2014年にヒトのiPS細胞から肺上皮前駆細胞を効率的に作製することに成功し、2019年にはHPS2型の患者さん由来のiPS細胞を作製して、ここから2型肺胞上皮細胞の肺サーファクタント分泌異常を確認することに成功していました。

今回の研究では成人後に特徴的な間質性肺炎を発症したHSP1の患者さんからiPS細胞を作製し、間質性肺炎発症の原因を探りました。

治療で肺の枝状構造を回復できる可能性

こうして判明したのが、「肺の元になる肺芽オルガノイド(オルガノイドとは複数の細胞の集団)における枝状構造が減少する」ことでした。肺の発生過程では、肺芽と呼ばれる肺の元になる構造が初めにできて枝分かれします。ところが、研究グループがHSP1の患者さんから作製したiPS細胞を基に肺芽オルガノイドを作ったところ、枝分かれが減っていました。また、間質性肺炎を引き起こすと考えられているTGFβという物質が増えており、この物質の作用を止めると枝状構造が回復することも確認できました。

さらに、今回の細胞の中のタンパク質を分析したところ、細胞内のエネルギー産生に重要な役割を果たしているミトコンドリアの機能低下も確認できました。こうした変化によってHPS1の患者さんの肺の異常につながっていることが考えられ、今後の発症メカニズムの解明や治療薬の開発につながる可能性が示されました。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)

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