免疫不全を伴う新たな遺伝性の炎症性疾患を日本人で発見

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. プロテアソーム関連自己炎症症候群(PRAAS)に似た新しい遺伝性疾患を発見した
  2. 見つかった2人の患者さんでは、PRAASとは異なり脂肪萎縮がなく、肺高血圧症やリンパ球減少が見られた
  3. 遺伝子変異を突き止めた上で、遺伝子変異を再現したモデルマウスを作り、病気の詳細を調べた

タンパク質を分解するプロテアソームに異常が起こる病気「PRAAS」

岐阜大学を中心とした研究グループは、免疫不全を伴う新たな遺伝性の炎症性疾患を発見しました。さらに、病気の原因となる遺伝子変異を再現したモデルマウスを作製し、病気で起こる異常を詳細に調べた結果を報告しています。

体の中では常にタンパク質が合成されています。必要なタンパク質によって生命が維持されていますが、その一方で不要なものや不良なものは分解していく必要もあります。この際に分解処理を担うのがタンパク質複合体の「プロテアソーム」と呼ばれる構造物です。このプロテアソームは複数のサブユニットタンパク質から成り立っており、その内訳は7個のαサブユニットと、7個のβサブユニットがリング状に結合したものとなります。

これらのサブユニットタンパク質をコードする遺伝子に変異が起こると、難治性の慢性炎症疾患を発症することがわかってきており、注目されていました。この病気が発症すると、周期性の発熱、皮疹(赤い斑点などの皮膚の変化)、進行性の脂肪筋肉萎縮(いしゅく、大きさが小さくなること)が起こります。こうしたプロテアソームの機能異常によって起こる病気は、「プロテアソーム関連自己炎症症候群(PRAAS)」と総称されています。

PRAASと似ているが異なる症状もある2人を発見、別の病気として提唱

今回研究グループは、新生児期にPRAASに似た炎症症状を発症し、その症状が周期的に現れるという、治療困難な日本人の患者さんを別々に2人発見し、この2人について遺伝子解析を進めました。この患者さんたちは通常のPRAASに認められる脂肪萎縮が見られない一方で、PRAASでは認められない肺高血圧症(肺の内部の血圧が高まる病気)やリンパ球(白血球の一種)減少を示していました。

こうして判明したのは、サブユニットタンパク質のうち「プロテアソームサブユニットβ1i」をコードしている遺伝子(PSMB9)が変異しているということでした。また、この疾患は、常染色体優性(顕性)遺伝形式をとる遺伝性疾患であることも発見しました。

続いて研究グループは、この遺伝子変異を再現したモデルマウスを作製し、病気の詳細を調べました。すると、プロテアソームの構造や機能に異常があるほか、免疫機能の異常を発生していることがわかりました。

研究グループはこの疾患について、PRAASと似ているものの異なる症状であり、「免疫不全を伴う自己炎症性疾患」という新しい病気と考えられるのではないかと提案しています。

今回作られたPRAASを再現するモデルマウスは、プロテアソームの障害を研究するために活用可能です。プロテアソームの機能異常は、今回見つかった遺伝性疾患だけではなく、神経変性疾患、難治性腸炎、がんなどでも認められます。そのため、モデルマウスの研究を進めることが、プロテアソームの機能異常の制御や治療の開発にもつながりそうです。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)

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