女性のX連鎖性鉄芽球性貧血の治療薬候補を発見

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 女性のX連鎖性鉄芽球性貧血のiPS細胞を用いた病態モデルを構築
  2. 患者さんから作製したiPS細胞において赤芽球成熟障害が起こることを確認
  3. 病態モデルに対してアザシチジンを用いることで赤芽球成熟障害の正常化を確認

存在しなかった女性型XLSAの病態モデルを構築

京都大学iPS細胞研究所の研究グループは、女性のX連鎖性鉄芽球性貧血(XLSA)の患者さんからiPS細胞を樹立し、病気を再現した病態モデルを作製することに成功したと発表しました。さらに病態モデルを使うことで、アザシチジン(AZA)と呼ばれる薬剤が細胞の赤血球生成を改善し、治療薬となり得ることが示されました。

体の中では、血液の赤血球の中にあるヘモグロビンが酸素と結合し酸素を運搬しています。ヘモグロビンには鉄が含まれていますが、何らかの原因によってヘモグロビンが正常に作られない場合、ヘモグロビン内部に鉄分が沈着し「鉄芽球」と呼ばれる状態になります。

先天性の遺伝子の変異によって鉄芽球が生じ、酸素がうまく運べずに貧血になるのが遺伝性鉄芽球性貧血です。最も頻度が高いものがXLSAで、XLSAは「赤血球型5-アミノレブリン酸合成酵素(ALAS2)遺伝子」の変異が原因となって発症します。XLSA患者さんの多くは男性で、男性の場合は多くが無症状や軽度の貧血症状のみです。一方、患者さんの4分の1程度は女性で、女性の場合、重度な貧血が成人中期に発症することが多く見られます。

通常、女性では各細胞に2本あるX染色体の片方が、細胞ごとにランダムに不活性化されます。しかしX染色体上のALAS2遺伝子に変異があると、この不活性化がランダムに起こらず、ALAS2遺伝子に変異があるX染色体が偏って多く残ります。そのため、変異があるALAS2遺伝子が働く細胞が多く存在するようになり、重篤な貧血症状が起こります。

現在のところ治療法の一つはピリドキシンと呼ばれる薬剤の大量投与ですが、半数の患者さんには効果がないことがわかっています。

また、これまで男性型のXLSAを再現した細胞や動物を用いた病態のモデルは作られていたのですが、女性型のXLSAでは存在しませんでした。

今回、研究グループは、3人の女性の患者さんの末梢血単核細胞(PBMC)からiPS細胞を作製し、ここから女性型XLSAの病態モデルを作製することに成功しました。そして、ALAS2遺伝子の変異の影響によって、正常に赤血球に成熟する前の段階である赤芽球が作られないことを確認しました。

がん治療に使われている薬剤で赤芽球成熟障害の改善を実現

続いて研究グループは、iPS細胞から作った病態モデルに対して何らかの薬剤を使うことで、赤芽球成熟障害を改善できると考えました。そこでX染色体の不活化を解除するDNA脱メチル化剤であるAZAに注目しました。iPS細胞から作った造血前駆細胞(血液の大元になる細胞)から赤芽球へと分化するタイミングでAZAを投与した結果、赤血球が作られない障害が改善するとわかりました。

研究グループは、「AZAは一部のがん患者さんの治療法の一つになっていることから、DNA脱メチル化剤を用いることが女性XLSA患者さんの新たな治療法として有望である可能性がある」と、考えています。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)

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