「16p11.2重複」で見られる精神症状は人それぞれで、個人の中でも成長につれ変化すると判明

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 統合失調症と自閉スペクトラム症の患者さん計4人で、同じ16p11.2重複という遺伝的な変化を確認
  2. この4人を詳しく調べたところ、16p11.2重複がある場合に現れる精神症状は人により異なっていた
  3. さらに、16p11.2重複で現れる精神症状は一人の患者さんの中でも成長に伴い多様に変化した

16p11.2重複は、精神疾患に関連するゲノムの個人差

名古屋大学の研究グループは統合失調症の2人と自閉スペクトラム症の2人から、ゲノムコピー数バリアント(CNV)と呼ばれるゲノムの個人差のうち「16p11.2重複」が共通して見られることを確認し、この4人の情報に基づいて16p11.2重複で現れる精神症状を詳しく分析した結果を報告しました。

CNVの中には精神や神経の病気に関連するものが存在しており、その中の一つに16p11.2重複があります。これは16番染色体の特定の領域が重複し、通常2コピーであるところが3コピーになっているものです。この領域には20~30の遺伝子が含まれ、それら遺伝子の一部は神経細胞の発達に重要な役割を持ちます。16p11.2重複がある場合、知的能力障害、自閉スペクトラム症、統合失調症などの発症リスクにつながることが知られています。

今回、研究グループは統合失調症の2人と自閉スペクトラム症の2人を対象とした遺伝学的な解析から、4人に共通して16p11.2重複の存在を確認しました。そこで発達歴、発症年齢、精神症状、入院期間などを詳しく調べました。

精神症状は4人とも違い、それぞれ成長に伴い変化していた

こうして判明したのは、同じCNVを持つ4人がそれぞれ異なる症状を現し、さらに個人の症状も成長に伴い多様に変化していた、ということでした。統合失調症の1人は幼少時に自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症の症候が現れ、6歳児の知能検査で軽度の知的能力障害を確認。さらに20歳で統合失調症を発症し、その後、双極性障害に関連した症状が認められました。薬の効果が乏しく、15年以上の入院歴がありました。統合失調症のもう1人も、治療が困難な統合失調症で30年間の入院歴がありました。

自閉スペクトラム症の1人は、自閉スペクトラム症と注意欠陥・多動症と診断されていました。この患者さんは幼少時から強いこだわりと感覚過敏があって衝動性が強く、学校では授業に集中して取り組むことが難しい状態だったそうです。さらに、自閉スペクトラム症のもう1人も、幼少期に自閉スペクトラム症と注意欠陥・多動症と診断されていましたが、統合失調症に認められる妄想や双極性障害の症状も認められていました。

アレイCGH法の保険適用で、16p11.2重複の診断が増える可能性

今回の研究によって、16p11.2重複を持つ場合について、精神医学的な診断名は一様ではなく、一人の患者さんでも多様な症状が現れていることがわかりました。2021年10月以降、遺伝的な解析法であるアレイCGH法が保険適用になり、16p11.2重複を調べることができるようになりました。今後、16p11.2重複の患者さんが報告されるケースが増えると見込まれています。研究グループは、今回の報告のような、症状などに関連した情報がこれから役立つと予想しています。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)

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