ヒトゲノム配列、ついに「完全に」解読

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. ヒトゲノムは2003年に解読されたが、まだ不明な部分が8%残っていた
  2. T2Tコンソーシアムが、2つのロングリード技術を組み合わせて完全解読に至った
  3. 病気に関連するたくさんの遺伝子変異についてより正確にわかるようになった

反復配列が多く解読困難だった部分を「ロングリード」で克服

米国国立衛生研究所(NIH)は、ヒトゲノム配列の完全解読に成功したことを発表しました。これは、NIH傘下の米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)、カリフォルニア大学サンタクルーズ校、ワシントン大学の研究者を中心とした「テロメアtoテロメア(T2T)コンソーシアム」により行われたものです。

2003年、ヒトゲノムプロジェクトにより、ヒトゲノムのドラフト配列が初めて作成されました。このとき、ゲノムの約92%の配列が解読されましたが、残りの8%は反復配列などが含まれていることが原因で解読されておらず、この部分にはまだ多くの遺伝子が含まれていました。その後、何千人もの研究者が、実験方法や計算方法を工夫し、改良していったことで、このたび、ついに完全解読に至りました。

一度に数百塩基のDNA配列を決定する「ショートリード」技術は、ヒトゲノムプロジェクトに大いに貢献した一方で、決定した配列を組み合わせた場合にギャップ(解読し切れない部分)が残りました。これまで解読できておらず、新たに解読されたDNA配列は、ほとんどが染色体の先端(テロメア)や中央部(セントロメア)の反復配列が多い部分でした。そのため、解読には「ショートリード」ではなく、「ロングリード」が必要でした。

一方で、ショートリード技術によりDNA配列の解読コストが大幅に低下したことは、精度を保ったままより長いDNA配列を解読するための新しい技術への投資につながりました。そして、この10年で、長いDNA配列を解読できる2つの技術が誕生しました。1つは「Oxford Nanopore DNAシーケンス法」で、最大100万塩基をそれなりの精度で読み取ることができます。もう1つは「PacBio HiFi DNAシーケンス法」で、約2万塩基をほぼ完璧な精度で読み取ることができます。T2Tコンソーシアムの研究者たちは、この2つのDNAシーケンス法を用いて、完全なヒトゲノム配列の解読に成功しました。

ゲノム配列の日常診療への応用に向け、一歩前進

約30億塩基の、完全でギャップのないヒトゲノム配列が得られたことは、ヒトゲノム上で生じている変異の全容を理解し、特定の疾患に対する遺伝的な関わりを理解するために重要です。実際、T2Tコンソーシアムは、完全なヒトゲノム配列を参照し、新規で200万以上の変異を発見したり、病気に関連のある622の遺伝子内のバリアントについて、より正確な情報を見出したりしています。これは、将来的に、ゲノム配列が日常の診療に利用されるための礎となります。完全なヒトゲノム配列は、その他にも、染色体がどのように分離・分裂するのかなど、基礎生物学的な分野にも貢献します。

T2Tコンソーシアム共同議長のAdam Phillippy博士は、「ヒトゲノム配列の解読が完了したことで、私たちは新しい眼鏡をかけたように、全てをはっきりと見ることができるようになりました。そして、その意味を理解することに一歩近づきました」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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