アラン・ハーンドン・ダドリー症候群、有望な遺伝子治療法と新規薬剤候補を発見

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. アラン・ハーンドン・ダドリー症候群は遺伝性の脳発達障害で、MCT8の変異で起こる
  2. 「AAV9-MCT8」でマウスを遺伝子治療したところ、認知機能・運動機能が改善
  3. 薬剤「フェニル酪酸ナトリウム」で患者さんの細胞由来病態モデルのMCT8機能が改善

小児期に男性でのみ診断される、重度の脳発達障害

米シダーズ・サイナイ医療センターは、遺伝性の脳発達障害「アラン・ハーンドン・ダドリー症候群(AHDS)」についての2つの研究結果を発表しました。いずれも、同センターの研究者を含む研究グループによるもので、どちらの結果も、AHDSの新たな治療法となる可能性があります。

AHDSは、通常、小児期に男性でのみ診断される疾患で、「MCT8」として知られる甲状腺ホルモン輸送体の設計図となる遺伝子の変異によって引き起こされるとわかっています。MCT8は、血液脳関門を通過して甲状腺ホルモンを脳細胞に運ぶ役割を果たします。この運搬は、ヒトの脳の発達と機能に重要で、異常が生じると深刻な知的障害、発話や運動の障害につながる可能性があります。

AAV9ベクターで正常MCT8を導入する遺伝子治療、マウスで症状改善

1つ目に紹介されている研究結果は、米シカゴ大学を中心とした研究グループによるものです。研究グループは、正常なMCT8の設計図となる遺伝子(SLC16A2遺伝子)をAAV9ベクターで導入する遺伝子治療法(AAV9-MCT8)で、症状が改善できるのではないかと考え、研究を行いました。

AAV9-MCT8を生まれたばかりのマウスと若いマウス(いずれもオス)の血流内に注入したところ、マウスは学習曲線の改善を示し、この遺伝子治療が認知機能と運動機能の改善に有効である可能性が示唆されました。

患者さん血液由来iPS細胞からニューロンと血液脳関門をモデル化、薬剤の効果を確認

2つ目に紹介されている研究結果は、ドイツの生化学・分子生物学研究所(IBMB)を中心とした研究グループによるものです。研究グループはこれまでの研究で、フェニル酪酸ナトリウムという薬剤がMCT8欠損マウスにおけるMCT8の機能改善に効果がある可能性を見出しました。今回、この薬剤がヒトに有効な可能性を調べました。

シダーズ・サイナイ医療センターの研究グループは既に、AHDSの患者さんの血液細胞からiPS細胞を樹立し、シャーレの中で患者さんのニューロンと血液脳関門をモデル化することに成功していました。IBMBの研究グループは、今回このモデルを利用して、フェニル酪酸ナトリウムが実際の患者さん由来の細胞で、MCT8の機能を改善できるかを検証しました。その結果、この薬剤はMCT8の発現を安定させ、さらにMCT8の甲状腺ホルモン輸送機能を回復できることがわかりました。

研究責任者の一人である、シダーズ・サイナイ医療センターのスヴェンセン博士は、「AHDSの新たな治療法につながる2つの画期的な方法が見出された」と述べています。また、同研究所は、「いずれの治療法も、今後、臨床研究が行われるよう求められている」と説明しています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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