親子のQOLは1年でどう変化したのか
国立精神・神経医療研究センターを中心とした研究グループは、新型コロナウイルス感染症が拡大する中で、発達障害の子どもとその親のQOLは時間の経過と共に変化していたと報告しました。子どものQOL改善が、親の育児ストレスの改善や抑うつ傾向の軽減に関連し、逆に親の育児ストレスが上昇していた場合に子どものQOL悪化につながるなど相互に関連していることも判明しました。
発達障害の子どもは環境の変化に敏感で、新型コロナウイルス拡大の中で精神的な問題も懸念されていました。また、感染拡大の影響で親の育児に関わる負担も重くなると考えられていました。
そこで研究グループは、新型コロナウイルス感染者増加が本格的に始まった2020年5月から、発達障害の子どもとその親を対象としてQOLの調査に着手しました。2020年時点の調査では、子どもと親のQOLの低下が、子どもの睡眠スケジュールの変化や親の勤務形態を簡単に変えられないことと関連していることや、子どもの睡眠スケジュールが悪化すると子どもの抑うつにつながることを明らかにしていました。
今回、1年が経過した2021年5月の時点で、子どもと親のQOLの変化について調べることで、子どものQOLと親の精神状態がどのように影響し合っているのかを分析しました。
調査の対象は2020年5月と2021年のいずれの時点でも8~17歳までの学齢期の発達障害(神経発達症)の子ども89人とその親で、男子70人、女子は19人でした。親自身の抑うつ、不安、育児ストレス、QOL、そして子どもの不適応行動とQOLを親が質問紙調査に回答する形で評価しました。また、子どもの生活面や家庭の経済状況の変化などについてのアンケート調査も合わせて行いました。子どもたちは、一時的な気分を表すVAS(Visual Analog Scale)について、0(今まで感じた中で最悪)~100(今まで感じた中で最高)の数値を用いて回答しました。
親のメンタルと子どものQOLは相互に関連
その結果、子どものQOLとVAS(一時的な気分)は感染初期の1年前と比べると改善していましたが、逆に親のQOLは悪化していることがわかりました。
また、2020年5月に親の抑うつ傾向が強い場合には、翌年の育児ストレスおよび抑うつ傾向が強まる傾向と関連しており、新型コロナウイルス拡大初期の親の精神状態が1年後の状態と関係していることが示唆されました。
次に、親子間での関連を解析した結果、2020年5月に子どものQOLが高いと、翌年の子どものQOLが上昇するだけではなく、翌年の親の育児ストレスが軽減し、親の抑うつ傾向も悪化させにくい傾向がありました。逆に、親の育児ストレスが上昇していた場合、子どものQOL悪化につながることも明らかになりました。
さらに、2021年5月の子どもの気分の悪化や親のQOL低下は、2020年よりも2021年の方が親の経済的な負担感に左右されやすくなっていました。
子どものQOLは親の育児ストレスや抑うつ傾向の影響を受けることになり、研究グループは親のメンタルヘルスへの援助が重要であると説明しています。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)