遺伝性疾患の原因になる変異を新たに約4,000個発見、「スプライス部位」に着目した結果

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 遺伝性疾患と関連した遺伝子の「スプライス部位」に着目し、原因となる変異を探索
  2. これまで知られていなかった遺伝性疾患の原因になり得る遺伝子変異を3,942個発見
  3. 今後、希少疾患の診断率向上、治療薬の開発につながる可能性がある

遺伝子の中で機能を担わない場所に着目

九州大学の研究グループは、これまでに遺伝性疾患との関連が考えられている遺伝子内の、これまで注目されてこなかった領域を対象として、遺伝性疾患の原因になり得る遺伝子変異があるかを探索しました。その結果、およそ4,000個の原因になり得る遺伝子変異が見つかったと発表しました。

遺伝性疾患は知られているだけでも約7,000種類あり、その多くは患者数が少ない希少疾患です。それらは遺伝子の変化(遺伝子変異)によって引き起こされますが、遺伝性疾患の症状が見られる患者さんの遺伝子を調べても、原因となる遺伝子変異が見つかる割合は5割程度にとどまっていました。これは遺伝性疾患の診断の難しさにつながってきました。

そこで研究グループは、これまでに重要度が低いとされて注目されてこなかったゲノム領域に焦点を当てることにしました。タンパク質の設計図となる遺伝子の中には、タンパク質に翻訳されるエクソンと呼ばれる場所と、翻訳されないイントロンと呼ばれる場所が存在します。遺伝子からタンパク質が作られるときには、このイントロンが切り取られて除かれるのですが、このときにエクソンとイントロンの境目に当たるのが「スプライス部位」です。

研究グループは、本来なかった部分にスプライス部位が新たに形成され、切り取られる部分が変化することで遺伝子機能に有害な影響をもたらす変異に着目しました。約7万人のゲノムデータに基づいて、スプライス部位での遺伝子変異が遺伝子の異常につながる可能性があるのかを分析しました。

遺伝子の異常につながる遺伝子変異を発見

その結果、スプライス部位の変異により遺伝子の機能に有害な影響を及ぼすと考えられた3,942個の遺伝子変異が見つかりました。遺伝子発現データを用いてそれらの変異を検証したところ、実際にスプライス部位を形成する有害な変異であることが確認されました。今回発見した遺伝子変異の数は、これまでに知られている遺伝性疾患の原因変異の数である約5万個の8%に相当する数で、一度にこれほど多くの変異が報告されるのは初めてだということです。

研究グループは、今回の発見によって先天性代謝異常症などの遺伝性疾患を早期に発見して、適切な治療を開始することが可能になると説明しています。遺伝性疾患の患者さんにとっては生活の質の向上につながる、診断への応用が期待されます。

さらに、今回発見されたスプライス部位での異常を抑える核酸医薬の開発にもつながる可能性があると説明しています。今後、新たな遺伝性疾患の治療に応用される可能性もありそうです。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)

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