遺伝性のステロイド抵抗性ネフローゼ症候群、患者さん由来腎細胞の遺伝子治療に成功

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. ポドシン遺伝子変異で生じるSRNSの遺伝子治療に有用なバキュロウイルス由来のシステムを開発
  2. 従来のシステムと異なり、導入DNAサイズの制限がなく安全性も高い手法
  3. このシステムを用い、患者さん由来ポドサイトのポドシン遺伝子をゲノム編集で修復することに成功

薬で治せないため、ポドシン遺伝子を修復する遺伝子治療が求められている

英国のブリストル大学は、遺伝子治療に活用できる新たなシステムを開発し、このシステムにより、遺伝性のステロイド抵抗性ネフローゼ症候群(SRNS)の患者さん由来の腎細胞で、病気の原因となっているポドシン遺伝子を修復することに成功したと発表しました。

SRNSは、腎臓に症状が現れる遺伝性疾患の1つで、幼い頃に腎不全となり、生活の質(QOL)に大きく影響します。ポドシン遺伝子は、腎臓の機能に不可欠なタンパク質であるポドシンの設計図となる遺伝子です。ポドシンは通常、ポドサイトと呼ばれる腎臓の特殊な細胞の表面に存在しています。SRNSではこの遺伝子の変異により、ポドシンが細胞表面に出られず細胞内に留まるようになり、ポドサイトが傷害されます。SRNSは薬で治すことができないため、ポドシン遺伝子を修復する遺伝子治療法の開発に期待が寄せられています。

従来困難だった大きなDNAも細胞に運び込めるシステムを開発

遺伝子治療において、修復用の遺伝子を治療したい細胞に送り込むために現在主に使われているのは、レンチウイルス(LV)、アデノウイルス(AV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)など、ヒトに感染する比較的無害なウイルスを基にしたシステムです。これらのシステムに用いられるウイルスは、治療に必要な遺伝子(DNA)を封入できるスペース(殻の中のスペース)が限られているため、場合によっては必要なDNAが搭載し切れないという課題がありました。

そこで今回、研究グループは、ヒトに無害な昆虫のウイルスであるバキュロウイルスをヒトの細胞に効率よく感染できるように改変し、このウイルスを基として搭載するDNAの容量が制限されないようなシステムを開発しました。バキュロウイルスを用いたシステムは、LV、AV、AAVのように殻の内側に目的のDNAを封入するのではなく、中空の棒のような殻に必要なDNAを搭載します。そのため、必要なDNAが大きくなれば単純にその棒が長くなっていき、容量が制限されないのです。また、バキュロウイルスは昆虫の体内でのみ増殖し、ヒトの細胞内では増殖しないため、安全だと考えられます。

患者さん由来のポドサイトのポドシンを正常な位置に戻すことに成功

研究グループは、このシステムを用いて、従来可能だった容量よりもはるかに大きなDNAを、あらゆる種類のヒト細胞に送り込めることを確認しました。そこで、SRNSの患者さん由来のポドサイトを用いて、このシステムにより遺伝子治療が可能かを検証しました。

このバキュロウイルスのシステムに、ゲノム編集に必要なクリスパーキャス装置と正常なポドシン遺伝子を搭載し、患者さん由来のポドサイトに感染させたところ、ゲノム編集が起こってポドシン遺伝子が正常なものに置き換わり、細胞内に留まっていたポドシンタンパク質を細胞表面に戻すことができました。

研究グループは、今回の結果について、「この新しい遺伝子治療アプローチは、SRNSだけでなく、他のさまざまな遺伝性の腎疾患に対しても有望です。臨床応用までにはまだ長くかかりますが、非常に価値のある結果です」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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