BRCA1/2遺伝子が胃・食道・胆道がんのリスク上昇にも関与、日本人の大規模解析で判明

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 14種類のがんについて、BRCA1/2遺伝子と関連するがんを日本人で調べた
  2. 関連が知られた卵巣がんや乳がんなどだけではなく、胃、食道、胆道がんとの関連も確認
  3. BRCA1/2に病的バリアントがある場合に有効性を示すPARP阻害薬で治療できる可能性

日本人約10万人のデータで、世界最大規模のがん種横断的ゲノム解析を実施

理化学研究所を中心とした研究グループは、がんのリスク上昇と関連していることが知られているBRCA1/2遺伝子に変異がある場合に、胃、食道、胆道がんのリスクも上昇することを確認し、発表しました。

がんのリスクは遺伝要因と環境要因に影響を受けます。一部のがんでは、約30億塩基の配列より成り立つ遺伝情報のうち、わずか1つの塩基配列が異なることで発症リスクが大きく上がることが知られています。こうした塩基配列の違いを遺伝的バリアントと言い、そのうち病気の原因となるものを病的バリアントと呼びます。

がんのリスクに関連する遺伝子は複数知られていますが、その中でもBRCA1およびBRCA2という2つの遺伝子(BRCA1/2遺伝子)は卵巣がん、乳がん、前立腺がん、膵がんのリスク上昇に関連していることが既に知られていました。例えば、BRCA1/2に病的バリアントがある場合には乳がんのリスクは約10倍、卵巣がんのリスクは数十倍になるとわかっています。

このたび研究グループはBRCA1/2の病的バリアントが他のがん種のリスク上昇にも関連するかどうかを調べるため、日本人およそ10万人を対象に14種類のがんとBRCA1/2遺伝子との関連について解析しました。解析の対象となったがん種は、胆道がん、乳がん、子宮頸がん、大腸がん、子宮体がん、食道がん、胃がん、肝がん、肺がん、リンパ腫、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、腎がんです。こうした解析は、世界最大規模だといいます。

特定のがんとBRCA1/2遺伝子の病的バリアントとの関連が明らかになった場合、遺伝子変異を持つ人には、がんの検診を積極的に受けてもらうことにより、がんの早期診断および早期治療につなげられる可能性があります。さらに、BRCA1/2遺伝子に病的バリアントがある卵巣、乳房、前立腺、膵臓がんにはPARP阻害薬と呼ばれる薬の治療効果があるとわかっており、この薬は既に保険適用となっています。BRCA1/2遺伝子の病的バリアントが、まだ知られていないがん種のリスク上昇にも関連していれば、それらのがんにもPARP阻害薬が治療効果を発揮する可能性も考えられます。

胃がん・食道がん・胆道がんの、5倍を超えるリスク上昇にも関連

こうして判明したのは、従来関連が知られていた卵巣がん、乳がん、前立腺がん、膵がんに加えて、胃がん、食道がん、胆道がんのリスク上昇にBRCA1/2遺伝子の病的バリアントが関連しているということでした。

具体的なリスク上昇の程度は、BRCA1遺伝子に病的バリアントがある場合には、女性の乳がんが16.1倍、卵巣がんが75.6倍、膵がんが12.6倍であったほか、胃がんは5.2倍、胆道がんは17.4倍でした。さらに、BRCA2遺伝子に病的バリアントがある場合には、女性乳がんは10.9倍、男性乳がんは67.9倍、卵巣がんは11.3倍、膵がんは10.7倍、前立腺がんは4.0倍で、胃がんは4.7倍、食道がんは5.6倍でした。

このほかにも、胃や食道、胆道よりも関連性は弱いものの、BRCA1と肺がんやリンパ腫、BRCA2と子宮頸がん、子宮体がん、腎がんがそれぞれ関連している可能性も示されました。

研究グループは、新たに関連が明らかになったがんについて個別化医療が進むものと期待できると説明しています。今後、早期発見スクリーニングの実施や、PARP阻害薬による治療の可能性が検討される可能性もありそうです。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)

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