3q29欠失を持つ治療抵抗性の統合失調症、症状や治療に対する反応を報告

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 3q29欠失と呼ばれる遺伝的な変化と統合失調症の症状を持つ4人の患者さんの症状や治療経過について長期的に調べた
  2. 4人の患者さん全てで、治療抵抗性の特徴を持つことを確認、クロザピンの治療が有効である可能性
  3. 症状や治療のデータ蓄積により、3q29欠失をもつ治療抵抗性の統合失調症の病態解明につながることが期待

精神疾患のリスクとして知られる遺伝領域の欠失、統合失調症の症状との関連を解析

名古屋大学の研究グループは3q29欠失と呼ばれる、3番染色体の一部が欠失(いくつかのの遺伝子とともに消失)する遺伝的な変化と、統合失調症の症状を持つ4人の患者さんを対象として、その症状や治療経過について解析し、論文で報告しました。

ヒトの遺伝子は通常、細胞の中にある染色体に収まっています。その染色体は両親から1本ずつ受け継ぎ2本ずつ、23組存在します。3q29欠失は、このうち3番染色体の3q29領域と呼ばれる場所が欠失し、この領域の遺伝子は通常2つあるところ一方が欠けた状態になっています。

3q29欠失が起こる頻度はまれではあるものの、3q29の領域には脳の発達に関連した遺伝子が22種類ほどあると知られており、3q29欠失は統合失調症をはじめとした知的能力障害、自閉スペクトラム症、双極性障害などの精神疾患の発症に強く関連すると考えられてきました。一方で、3q29欠失を持つ統合失調症の患者さん一人ひとりについて詳しく調査した研究はありませんでした。

今回、研究グループは、3q29欠失が確認された統合失調症の4人の患者さんを対象として、具体的な症状やその経時的な変化、実際に行われた治療やその効果などの詳細を調べました。

治療効果が得られにくいなど、3q29欠失を持つ統合失調症に共通の特徴を確認

その結果、3q29欠失を持つ統合失調症の4人の患者さんすべてで、高用量の抗精神病薬による治療を受けても、あまり効果が得られない(治療抵抗性)という特徴をもつことがわかりました。これまで、治療抵抗性の統合失調症の患者さんに対して、クロザピンと呼ばれる薬が有効であることが報告されていましたが、今回、クロザピンによる治療を受けた2人は効果が確認され、3q29欠失を持つ治療抵抗性の統合失調症の患者さんにおいても、早い段階でクロザピンの治療を受けることが有効である可能性が示唆されました。

このほか4人には、発達段階において知的能力障害、自閉スペクトラム症、双極性障害に関連する症状が確認されたほか、気分が高揚したり、怒りやすかったりする躁(そう)の症状も確認されました。MRI検査をしたところ脳の画像検査の結果からは、小脳の運動に関連する部分の大きさが小さいなどの特徴も確認されました。

今回の研究に関連して研究グループは、2021年10月からアレイCGHという検査が保険適用になり3q29欠失の検査が可能になっていると紹介しています。検査の登場により診断されるケースが増える可能性も想定されます。研究グループは、今回のような症状や治療の記録が蓄積することで、エビデンスに基づいた治療法の確立につながると指摘しています。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)

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