発症の仕組みが不明だった先天性甲状腺機能低下症
国立成育医療研究センターを中心とした研究グループは先天性甲状腺機能低下症の原因を解析した結果、この病気につながる遺伝的な要因が2番染色体に存在することを世界で初めて発見したと発表しました。
甲状腺は、首にある臓器の一つで、甲状腺ホルモンと呼ばれる、ヒトが生きていく上で欠かせないホルモンを作り出す役割があります。甲状腺ホルモンが不足すると、成長や発達に大きな影響を及ぼします。先天性甲状腺機能低下症とは、甲状腺が正常に形成されない甲状腺形成異常を持つために、生まれつき甲状腺のはたらきが弱く甲状腺ホルモンが不足する病気で、発生頻度は約3,000人にひとり程度と推定されています。
先天性甲状腺機能低下症であると気が付かれず、早期に治療が行われない場合、子どもの成長や発達に障害が起こります。そのため、多くの国で新生児マススクリーニングと呼ばれる仕組みが整えられており、この中で先天性甲状腺機能低下症についても検査されています。しかし、早期発見の重要性が認識される一方、これまで先天性甲状腺機能低下症がどのような仕組みで起こるのかはよくわかっていませんでした。
今回、研究グループは日本において甲状腺形成異常が認められた142人を対象に、ゲノムワイド関連解析(GWAS)と呼ばれる方法を用いて、甲状腺の形成に影響を与える遺伝的な要因を調べました。ヒトの遺伝情報は約30億の塩基配列に保持されていますが、このうちの1か所の塩基配列の違いだけで個人の体質や病気のかかりやすさに関わることがあります。これを一塩基多型(SNP、スニップ)と言い、GWASは遺伝情報全体(ゲノム)を比較して病気や体質に関わる染色体領域やSNPを探索するために用いられます。
研究グループは142人の患者さんと、東北メディカル・メガバンク研究と呼ばれる研究で得られている日本人の一般住民約8,300人を対象にGWASを行いました。
甲状腺形成異常に関連する特徴を発見
その結果、2番染色体のSNPと病気の発症との関連が明らかになりました。見つかったSNPの情報をドイツ人の甲状腺形成異常が見られる患者さん80人においても検証したところ、日本人と同じSNPが病気の発症と関連していることが確認されました。
また、甲状腺形成異常には、甲状腺ができない無形成、甲状腺が小さくなる低形成、正常とは異なる場所にできる異所性がありますが、今回明らかになったSNPは、特に無形成と異所性に関連があることがわかりました。
研究グループは、今回の発見は先天性甲状腺機能低下症の発症メカニズムを理解するために重要であると説明しています。さらに、今回利用されたGWASが他の臓器形成異常などの病気の発症を調べるためにも有効である可能性があることも指摘しています。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)