視力低下などが起こるスタルガルト病、ABCA4遺伝子変異は800以上
米国国立衛生研究所(NIH)は、スタルガルト病(Stargardt disease)において、ABCA4遺伝子変異が網膜色素上皮(RPE)と呼ばれる目の細胞層に影響を及ぼしていることを、患者さんの皮膚細胞から作製した幹細胞に基づいた新しいモデルを用いて、初めて直接的に証明したと発表しました。この研究は、NIHの国立眼科研究所(NEI)で行われたもので、今回の発見は、スタルガルト病の進行メカニズムの新たな知見になったとともに、現在治療法がない同疾患の治療戦略に結び付くものです。
スタルガルト病は、中心視力と夜間視力が徐々に低下する遺伝性の希少疾患で、米国では約1万人に1人が発症しています。この病気における視力低下には、視細胞(網膜の光を感知する細胞)を保護して栄養を与えることが主な役割であるRPEという部分の障害が関連しています。RPEは視細胞を保護するために、古くなった外側の視細胞(視細胞外層)を壊して健康な状態を保っています。スタルガルト病では、RPE細胞が視細胞外層を壊す際に有害物質が作られ、それが視細胞の死や視力低下につながると考えられています。
ABCA4遺伝子から作られるタンパク質は、この有害物質の蓄積を防ぐ役割を持っています。そして、スタルガルト病はABCA4遺伝子のさまざまな変異によって引き起こされるということが、これまでの研究により明らかにされています。スタルガルト病のさまざまな症状に関連するABCA4遺伝子上の変異は、800以上見つかっています。
スタルガルト病は、ヒトで見つかっている遺伝的変異がとても多いため、主にマウスモデルで研究されていましたが、動物モデルで研究を進めるには限界がありました。今回、研究グループは、ヒトのRPEモデルを作製し、ABCA4遺伝子の変異がRPEに及ぼす影響を調べました。
患者さんの皮膚から幹細胞を作り、さらにRPEを作製
研究グループは、スタルガルト病の患者さんから皮膚細胞を採取して幹細胞とし、その幹細胞をRPE細胞に分化させることで、スタルガルト病のヒトRPEモデルを開発しました。この患者さん由来のRPEを調べたところ、RPE細胞膜にABCA4タンパク質が存在することが確認できました。そこで、遺伝子編集技術CRISPR/Cas9を用いて、ABCA4遺伝子を欠損させた患者さん由来のRPE(ABCA4ノックアウト)を作製し、RPEが形成されるまで(RPEの発生)におけるABCA4の機能を調べました。その結果、ABCA4の欠損は、患者さん由来のRPEの成熟に影響を与えませんでした。しかし、ABCA4ノックアウトのRPEに正常な(野生型)視細胞外層を接触させると、RPE細胞内に脂質の沈着物が蓄積されました。
ABCA4遺伝子の異常がRPEに直接影響していることを発見
さらに詳しく調べたところ、ABCA4ノックアウトではRPEの脂質代謝に問題があることで、視細胞外層を壊す能力が損なわれ、RPE細胞に有害な脂質が沈着していることがわかりました。これは、ABCA4の変異体が視細胞外層と接触しなくてもRPE細胞内に脂質が沈着し、さらにこの沈着は時間の経過とともにRPEの萎縮を引き起こして視細胞の変性につながる可能性があることを、ヒトRPEにおいて示した初めての報告です。
研究グループは、「今回の報告で、ABCA4遺伝子の機能を修正する遺伝子治療を考える際には、視神経だけでなく、RPEも治療標的とする必要があることが示された」と説明しており、「今回作製したヒトモデルは、スタルガルト病の治療法開発の加速につながる」と指摘しています。(遺伝性疾患プラス編集部)