遺伝性疾患の診断・治療アプローチ、「症状から」に加え「ゲノム配列から」も重要と判明

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 従来の臨床症状からではなくゲノム配列から遺伝性疾患の診断・治療に向かうという方法の有用性を検証
  2. 新たな症状がわかったり、新たな解釈が得られたりと、従来法だけでは得られなかった良い結果が複数得られた
  3. 遺伝子型からの診断・治療アプローチが有用であることが実証された

臨床症状からのアプローチでは診断等に偏りが生じる可能性がある

米国国立衛生研究所(NIH)は、遺伝性疾患について、従来の臨床的な所見からではなく、遺伝子配列から調べ始めることで、いろいろなことがより広くわかるようになったという研究結果を発表しました。

一般に、遺伝的疾患の治療では、まず症状のある患者さんを特定し、その症状の原因となる可能性がある変異を患者さんのゲノム配列から探します。しかし、この方法では、専門家がその疾患に対して知っている内容が基になるため、診断などに偏りが生じる可能性があります。つまり、このように症状などの「表現型」からのアプローチでは、その疾患で見られる症状や関連する変異の全容を解明することが難しくなります。

遺伝子型からのアプローチで患者さんを治療した13件の研究を評価

今回、研究グループは、「遺伝子型」からのアプローチで患者さんを治療した13件の研究を評価し、その結果を発表しました。遺伝子型からのアプローチでは、特定の変異を持つ患者さんをまず集め、その人たちについて、症状などを調べます。つまりこれは従来の、表現型からのアプローチとは対照的なアプローチと言えます。

13件の研究では、米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)のプレシジョンヘルス研究センター(Precision Health Research Center)にある「Reverse Phenotyping Core」のゲノムデータが使用されました。Reverse Phenotyping Coreは、NHGRIによる大規模な医療シーケンス臨床研究の「ClinSeq(R)」や、米国国立アレルギー感染症研究所(NIAID)による大規模なゲノムシーケンス臨床研究「NIAID Centralized Sequencing Protocol」などからゲノムデータを集約したもので、これにより、1万6,000人以上の研究参加者に対してゲノムシーケンスまたはエクソームシーケンスの解析を行うことができました。

遺伝子と臨床症状の新しい関係が明らかに

今回の研究により、3つの発見がありました。

1つ目として、ゲノム上の変異と特定の臨床症状との間に、新たな関係が発見されました。例として、ある研究により、TPSAB1遺伝子のコピーが重複して2つ以上あることと、消化管、結合組織、神経系に関連する症状とが関連しているとわかりました。

2つ目として、その遺伝性疾患の典型的な症状を呈していなかったために診断がついていなかった患者さんを見つけ、新たな症状を発見することにつながりました。ある研究では、まず、既知の代謝性疾患に関連する変異がある人を見つけました。変異があってもわずかな症状しか見られなかった人について、詳しく検査をしたところ、代謝障害に関連する特定の物質が体内に高レベルに存在することが判明しました。

3つ目として、専門家は特定の変異がどのように機能するのかを発見することができました。例えば、ある研究では、ゲノム上のある変異が血液細胞の免疫機能障害に分子レベルで関連していることが発見されました。こうした発見は、新しく見つかった遺伝性疾患の理解につながる可能性があります。

これらの発見により、遺伝子と臨床症状の新しい関係が明らかになり、既知の遺伝性疾患に関してこれまで見つかっていなかった症状などがわかり、新しく発見された遺伝性疾患についての解釈が深まりました。つまり、臨床症状からではなく、遺伝子型から病気の診断へ向かうというアプローチが有用であるということが実証されたのです。

従来法では見つからなかった新たな希少疾患の発見に期待

研究グループは遺伝子型からのアプローチについて、他の方法では臨床的に気付かれなかった可能性のある希少疾患を特定する場合に特に有効であることが示されたとし、この研究を進めることで、将来の予防医療や精密医療の整備にもつながると指摘しています。

また、同研究の代表者の一人であるWilczewski博士は、「将来、遺伝子型からのアプローチがより多く行われるようになるにつれ、特に、より多様な人々が集団でゲノム配列研究に参加するようになるにつれて、ゲノム配列を調べることで助かる人がより増えるでしょう。そうなるように願っています」と、コメントしています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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