神経変性疾患と小胞体ストレスの関連を解析
京都大学の研究グループは、細胞の小胞体に存在する特定のタンパク質が遺伝子変異により変化すると、小胞体の機能を阻害して細胞死を引き起こし、最終的に運動神経変性疾患を引き起こすことを突き止めました。この発見は、神経変性疾患の治療法開発につながる可能性があります。
細胞内では、小胞体と呼ばれる部分でタンパク質が作られ、分子シャペロンと呼ばれる特定のタンパク質や酵素によって作られたタンパク質の品質がチェックされています。このシステムは時々誤作動を起こし、小胞体に異常な構造を持ったタンパク質が蓄積し、細胞にストレスを与えます(小胞体ストレス)。細胞は問題を解決しようとするものの、解決できない場合は、細胞を傷つけ、細胞死に至ることもあります。
これまでの研究で、小胞体ストレスがさまざまな種類の神経変性疾患に関与していることがわかっていますが、これらの疾患とどのように関連しているかはまだわかっていません。
そこで研究グループは、小胞体ストレスと神経変性疾患の発症との関連を明らかにしようと考え、今回の研究を開始しました。着目したのは、「セイピノパチー」(Seipinopathy)と呼ばれる運動神経変性疾患の原因となるタンパク質の「ngSeipin」。ngSeipinは、小胞体タンパク質「セイピン」(Seipin)の変異体タンパク質です。通常のSeipinには、糖鎖という分子が付いているのですが、変異体であるngSeipinには、糖鎖が付いておらず、ngSeipinが作られるとセイピノパチーが発症することは報告されていました。しかし、なぜ発症するのかは不明でした。
セイピノパチーのメカニズム、ngSeipinによる小胞体ストレスと細胞死だった
こうして判明したのは、ngSeipinが小胞体内で塊を形成して変形および膨張し、SERCA2bという重要なタンパク質を捕捉していることでした。このため、小胞体が正常に機能するために必要なカルシウムイオンが減少。このストレスが、最終的に細胞死を引き起こすと考えられました。一方で、SERCA2bとカルシウムイオンの量を増やすことで、ngSeipinによるストレスと細胞死を緩和できることも発見しました。
今回は細胞を用いての研究でしたが、研究グループは今後、生きた動物であるマウスで、この現象とセイピノパチー発症との関りを、さらに詳しくしらべていくとしています。また、iPS細胞を用いて、筋萎縮性側索硬化症(ALS)など、セイピノパチー以外の多くの運動神経変性疾患においても、小胞体のカルシウムイオンの減少が関与しているかどうかなど、調べていく方針だとしています。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)