希少遺伝性疾患「脱毛症を伴う顎顔面骨形成不全症」、発症の分子メカニズムが明らかに

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 「脱毛症を伴う顎顔面骨形成不全症」とエンドセリンA受容体(ETAR)遺伝子の変異との関連を解析
  2. ETARのアミノ酸が1つ変異することで通常は結合しない物質が強く結合し、発症すると判明
  3. 今回の発見は、今後、治療薬の開発につながる可能性がある

遺伝子のたった1か所に変化をもつ症例が報告されていた

東京大学を中心とした研究グループは、「脱毛症を伴う顎顔面骨形成不全症」という希少な遺伝性疾患の症状が起こる詳細なメカニズムを突き止めたことを発表しました。

研究グループは、先の研究で、血管の収縮に関係するエンドセリン1(ET1)という物質(生理活性ペプチド)と、ET1が結合するエンドセリンA受容体(ETAR)というタンパク質が、顔や血管、上下の顎(あご)の骨の発達に重要であることを発見しました。上下の顎の骨(上顎骨と下顎骨)の形成におけるET1の働きは、Dlx5/6という物質(転写因子)によってコントロールされていました。

脱毛症を伴う顎顔面骨形成不全症の患者さんのうち、ETARタンパク質の設計図となる遺伝子のDNAの1か所(1塩基)だけに変化が見られる人がいることが、フランスの研究グループにより報告されていました。具体的には、DNAのグアニン(G)という塩基がアデニン(A)に変化したことで、ETARタンパク質を構成するアミノ酸がグルタミン酸からリジンへ変更(E303K)になっていました。

1か所だけの変化が発症につながることを確認

そこで今回、研究グループは、この1か所だけの変化が、本当に症状の原因になっているのかどうかを確かめました。この患者さんと同じE303Kの変化をマウスに起こして調べたところ、耳や顔の形の変化や難聴が引き起こされることが確認されました。さらに、研究グループは以前に、ETARの1つのアミノ酸がチロシンからフェニルアラニンに変化(Y129F)している患者さんを報告していたため、Y129Fの変化もマウスに起こして確かめたところ、E303Kの変化をもつマウスとほぼ同じ症状が認められました。これらのマウスの上顎骨は、通常、ETARを介した働き(シグナル)が起こらない上顎骨の部分に強制的にシグナルを起こした場合の形に似ていました。

上顎骨は、受精後に胎児へと成長する過程で、鰓弓(さいきゅう)と呼ばれる部位から形成されますが、ここにはエンドセリン3(ET3)が存在しています。通常、ET3はETARと結合することはありません。研究グループは、「ETARの1か所の変化により、ET3がETARに結合できるようになってETARのシグナルが起こり、上顎骨の異常な発達を引き起こす」という仮説を立て、検証しました。

ETARのアミノ酸変化によるET3結合促進が原因と判明

こうしてわかったのは、ETARタンパク質の2つの変化、「E303K」と「Y129F」は、いずれもET3とETARの結合を促進する変化だったということです。このことは、細胞を用いた実験によって証明されました。さらに、上記2種類の、症状を再現したマウスにおいて、さらにET3が作られないようにした場合、耳の形や上顎の骨が正常に戻ることも確認されました。

「E303K」と「Y129F」は、いずれもET3とETARが直接結合している場所から離れたところで起きているアミノ酸の変化です。そこで研究グループは、なぜこのように離れた場所での変化がET3やETARの結合に影響を与えるのかを調べました。遺伝子組み換えマウス、薬理学、スーパーコンピューターを用いて、ET3とETARの結合を促進するタンパク質構造の変化を解析した結果、これらの変化はETARの電気的特性を変化させるなどして、ET3とETARとが結合しやすくしていたのだとわかりました。

ETARは、アドレナリン受容体やオピオイド受容体などを含む、クラスAのGタンパク質共役受容体(GPCR)というカテゴリーに属するタンパク質です。GPCRは、薬のターゲットの3分の1を占めています。今後、このタンパク質を詳しく研究することで、他の病気の情報も明らかになり、治療法の開発につながる可能性があります。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)

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