レーバー先天性黒内障、米国FDAが高血圧で既承認の薬剤が治療薬候補に

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. レーバー先天性黒内障10型は、CEP290遺伝子の変異により光受容細胞の一次繊毛に不具合が起こる
  2. 3つの実験系で多数の薬を調べ、高血圧治療薬だった「レセルピン」に治療効果を発見
  3. 原因遺伝子が160以上ある、網膜繊毛症全般に広く有効な可能性

一次繊毛の不具合で視力に問題が起こる疾患

米国国立衛生研究所(NIH)の研究グループは、遺伝性の網膜疾患「レーバー先天性黒内障10型」(Leber congenital amaurosis type 10、LCA 10)について、マウスや細胞のモデルを用いた研究で、治療薬候補となる化合物を、米国食品医薬品局(FDA)で既に承認されている薬剤の中から見つけ出しました。

LCA 10は、幼児期に重度の視覚障害や失明を引き起こすことが多い疾患で、その原因として、CEP290という遺伝子に変異が見つかっています。ヒトのほぼ全ての細胞には、表面から外側に向けて一本の毛のような構造体が生えており、これを一次繊毛と言います。一次繊毛は、細胞の機能に重要な役割を果たしており、CEP290は、この一次繊毛を構成するタンパク質の一つです。こうした背景から、LCAは網膜繊毛症に分類されます。CEP290の変異により、光受容細胞という細胞の一次繊毛に不具合が起き、これらの細胞が死滅することで、LCAにおける視力低下が起こります。

CEP290の変異はLCAで最も多く見られる遺伝子変異で、全体の20~25%を占めます。また、CEP290の変異は、LCAのほか、さまざまな臓器に関与する複数の症候群性疾患を引き起こす可能性があります。

6,000以上の既承認薬から、光受容細胞を生存促進させる「レセルピン」を発見

研究グループは今回、LCA10のマウスモデルと、オルガノイドと呼ばれるモデル組織2種類、計3つの実験系用いて、FDAにより承認されている6,000種類以上の化合物(薬剤)の中に、光受容細胞の生存を促進するものがあるかどうか調べました。ハイスループット・スクリーニング(たくさんの薬剤を一気に調べる方法)を行った結果、以前は高血圧の治療に使われていた古い薬である「レセルピン」を含む5種類の薬剤が候補として選定されました。

レセルピンをLCA10モデルに投与して詳しく調べたところ、レセルピンは、LCA10で不具合が起きている、オートファジーという細胞の働き(古くなったタンパク質や異常なタンパク質を分解するプロセス)を部分的に回復させることで、光受容細胞の一次繊毛の状態を改善しているようだということがわかりました。

レセルピンは、その作用機序から、一次繊毛に関わる原因がある網膜繊毛症全般に効果が得られる可能性があります。網膜繊毛症の原因遺伝子は160以上見つかっていますが、どの遺伝子が原因であるかに関わらず、広く有効な可能性があるのです。

研究グループは、今回の発見について、遺伝子に基づく治療法をそれぞれの変異に合わせて調整する、遺伝子治療とは対照的で、低コストな治療戦略になり得ると説明しています。(遺伝性疾患プラス編集部)

関連リンク