頸動脈の遺伝性腫瘍、根治方法は手術による切除のみ
慶應義塾大学の研究グループは、遺伝性疾患である「頸動脈小体腫瘍」について研究を行い、その遺伝学的背景について明らかにしたと発表しました。
頸動脈小体腫瘍は、脳に血流を送る重要な血管である頸動脈の組織にできる腫瘍で、1年あたり約1000万人に1人が発症するまれな病気です。根治する方法は手術による切除しかなく、腫瘍の増大や転移によって手術が難しい場合において、薬物治療や放射線治療などの効果は限定的であり、新しい治療法の開発が待たれています。
この病気は遺伝性腫瘍であると知られており、これまでに、頸動脈小体腫瘍を含めた頭頸部傍神経節腫の発症には、コハク酸脱水素酵素(SDH)を作り出すために必要な遺伝子などの変異が関与することがわかっていました。SDHは、SDHA、SDHB、SDHC、SDHDの4つの小さなタンパク質部分からできており、それぞれSDHA、SDHB、SDHC、SDHDという遺伝子がその設計図となります。しかし、頸動脈小体腫瘍において、その原因遺伝子がSDHだけなのかも含め十分解析されておらず、さらに日本やアジア地域における遺伝学的特徴はほとんどわかっていませんでした。
研究グループは、30人の患者さんから採取したDNAを解析し原因と考えられる病的バリアントを探索するとともに、腫瘍で生成されるタンパク質についても調べました。
4つのSDH関連遺伝子のほか、新たな原因による腫瘍の可能性も示す
末梢血DNAの遺伝学的検査の結果、半数の15人で原因とみられる病的バリアントを検出し、SDHB(23%)、SDHA(13%)、SDHD(10%)、SDHAF2(3%)のほか、その他のがん関連遺伝子に合計68か所のVUS(病気との関係が不明なDNAバリアント)が発見されました。
さらに、手術で取り除いた腫瘍に対して、タンパク質の解析を行ったところ、SDHに関連する遺伝子変異以外に発症原因が存在する可能性を示す腫瘍もあることがわかりました。
研究グループは、今回の研究の成果がこの病気の正確な診断と遺伝カウンセリングへの活用につながると述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)