血友病Aに対する初の遺伝子治療を米FDAが承認、重症成人患者さん対象

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 血友病Aに対する初の遺伝子治療「ロクタビアン」が米国FDAにより承認された
  2. コンパニオン診断で抗AAV5抗体陰性と判定された、重症成人患者さんが対象
  3. 3年以上の追跡で治療による出血リスクの低下を確認、長期的には効果減弱の可能性あり

年平均出血回数が5.4回/年から2.6回/年に改善

米国食品医薬品局(FDA)は2023年6月29日、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた血友病Aの遺伝子治療「Roctavian」(ロクタビアン)を承認したことを発表しました。ロクタビアンによる治療の対象となるのは、重症の血友病Aの成人患者さんのうち、AAVの血清型5型(AAV5)に対する抗体が、同じくFDAに承認されたコンパニオン診断で検出されなかった人です。

血友病Aは、血液の凝固に必要なタンパク質の一つ、血液凝固第VIII(8)因子(FVIII)の設計図となる遺伝子の変異により、主に男性に発症する希少な遺伝性疾患です。遺伝子変異によりFVIIIが体内で欠乏すると、出血を止められなくなったり、出血期間が長くなったりします。出血の頻度や重症度は、FVIIIが体内でどれくらい作られるかに依存します。重症の血友病Aは、FVIIIが特に少ない(血中1%未満)ことが特徴で、患者さん全体の約60%を占めます。重症の場合、治療を受けないと、腎臓や脳などで出血して命に関わることもあります。重症の血友病Aの治療は通常、FVIIIの補充療法、または、血液凝固能を改善する抗体医薬品などを用いて行われます。

ロクタビアンは、FVIII遺伝子を搭載した、AAVベクター遺伝子治療薬で、バイオマリン社(BioMarin Pharmaceutical Inc.)が開発したものです。治療は1回の静脈注射で行われます。注射後にFVIII遺伝子は肝臓の細胞で発現し、これによりFVIIIの血中濃度が上昇することで出血のリスクが軽減します。

ロクタビアンの安全性および有効性は、FVIII補充療法による治療歴のある18~70歳の重症血友病Aの成人男性を対象とした国際臨床試験で評価されました。有効性は、112人の患者さんを治療後3年以上追跡した調査結果に基づいて確立され、年平均出血率はベースライン時に5.4回/年であったのが、治療後は2.6回/年に減少することが示されています。

輸注反応や肝機能に注意して投与、臨床試験では血栓塞栓症やがん発生はなし

ロクタビアンによる治療を受けた人の大部分は、この治療を効果的かつ安全に受けるために免疫系を抑制する副腎皮質ステロイドの投与を受けました。なお、ロクタビアンによる治療効果は、時間の経過とともに減弱する可能性があることが指摘されています。

ロクタビアンに関連する主な副作用は、肝機能の軽度な変化、頭痛、吐き気、嘔吐、疲労、腹痛、輸注反応(インフュージョンリアクション)などでした。そのため、ロクタビアンの投与に際しては、輸注反応や肝酵素の上昇を注意深く観察することが推奨されています。また、ロクタビアンの投与により、FVIIIの活性が正常値を超えて上昇したケースがありますが、この場合、血栓が生じて血流を塞いでしまうリスクが高まる可能性があります。このほか、ロクタビアンによる遺伝子導入は、理論上、肝細胞がんなどのがんの発症リスクが伴う可能性があります。なお、臨床試験では、ロクタビアン治療に関連した血栓塞栓症やがんの発生は観察されませんでした。

ロクタビアンは、コンパニオン診断「AAV5 DetectCDx」とともに承認されています。ARUP Laboratories社が開発したこの検査は、同遺伝子治療の効果を低下/無効にする可能性のある抗AAV5抗体が体内にあるかどうかを検出するもので、AAV5 DetectCDxによって適格(抗AAV5抗体を持たない)と判定された血友病Aの患者さんがロクタビアンによる治療を受けることになります。同検査の安全性と有効性は、臨床試験により裏付けられています。

FDA生物製品評価研究センター(CBER)所長のPeter Marks医学博士は、「今回の承認は、血友病Aの患者さんに治療の選択肢を提供する上で重要な前進です。この遺伝子治療により、治療を日常的に継続する必要性が軽減される可能性があります」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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