難聴だけでなく、ふらつき・めまいなどの症状が見られる病気
東京医科歯科大学の研究グループは、マウスの眼球運動を観察する装置を新たに開発し、その装置を用いることで、SLC26A4遺伝子変異によるPendred症候群やDFNB4のモデルマウスの平衡機能障害を評価することに成功したと発表しました。
SLC26A4遺伝子の変異から引き起こされるPendred症候群とDFNB4は、前庭水管とよばれる内耳の部位の拡大と併せて、難聴、ふらつき、繰り返すめまい発作などの症状が見られるなど、日常生活にも影響を及ぼす聴覚平衡覚障害で、Pendred症候群では甲状腺腫が合併します。
SLC26A4遺伝子は、日本人で最も高頻度に同定される難聴遺伝子の一つであり、研究グループは、これまでに遺伝子改変技術を用いてPendred症候群のモデルマウスを作成し、聴覚機能障害の病態を明らかにしてきました。しかし、この病気の平衡機能に関しては、マウスの前庭眼反射(頭の動きと反対方向に眼球を動かして像のぶれを防ぐ反射)を評価する方法がなく、詳細は不明でした。
今回研究グループは、回転、重力、温度の3つの刺激に対する前庭眼反射の計測が可能な眼球運動を観察する装置を開発し、耳石(耳の奥にある小さな石)の形態と局在、前庭と呼ばれる部位の感覚細胞である有毛細胞形態の観察などの解析と組み合わせることで、SLC26A4遺伝子変異による平衡機能障害を引き起こす原因について調べました。
耳石の形成異常により傾斜刺激の平衡感覚に傷害
開発したマウスの眼球運動を評価する装置により、SLC26A4遺伝子をノックアウトしたマウスの前庭眼反射を観察したところ、回転刺激による眼球運動はそれほど障害されておらず、傾斜刺激(重力)による眼球の動きは障害されていることがわかりました。また、外耳への冷水の注入による温度刺激に対する眼球運動の計測では、同じマウスでも左右で差があることが判明し、障害の程度も多彩であることが示唆されました。平衡覚に関わる器官として、回転刺激は半規管、傾斜刺激は耳石器と呼ばれる器官の機能を反映することから、耳石器の異常が示唆されました。
次に、マイクロCTと呼ばれる解析装置を用いて耳石の形態や局在を調べたところ、局在には変化が見られなかったものの、ノックアウトマウスの耳石の体積は、耳石器内で耳石がある球形嚢と卵形嚢と呼ばれる構造内のどちらでも減少しており、特に球形嚢では多くで欠損していることがわかりました。また、有毛細胞形態は、ノックアウトマウスで異常は見られませんでした。これらの結果から、ノックアウトマウスでみられる症状は、主に耳石の形成に異常があることだと示唆されました。
Pendred症候群やDFNB4の患者で見られるめまい発作は、頭を傾けると悪化する傾向があるため、耳石が半規管に入り込んでしまうことから引き起こされる「良性発作性頭位めまい症」と呼ばれる別の病気と似た病態であるとも考えられていましたが、今回の結果から異なるメカニズムで引き起こされることが示唆されました。
研究グループは、Pendred症候群やDFNB4患者さんの平衡機能障害だけでなく、その他の耳石形成異常による疾患についても、治療方法を考える上で有用な結果である、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)