補体因子C5タンパク質を標的とする完全ヒト型モノクローナル抗体
米リジェネロン社(Regeneron Pharmaceuticals Inc.)は2023年8月18日、希少遺伝性疾患であるCD55欠損症(CHAPLE病/CHAPLE症候群)に対する最初で唯一の治療薬「Veopoz(TM)」(一般名:pozelimab-bbfg)が米国食品医薬品局(FDA)により承認されたことを発表しました。治療の対象となるのは、成人および1歳以上の小児の患者さんです。
CD55欠損症は、免疫系において重要な「補体系」の過剰活性化によって引き起こされる、極めてまれな、命に関わる遺伝性免疫疾患です。健康な人では、補体系は(病原)微生物の破壊に関わります。しかし、CD55欠損症の患者さんでは、CD55遺伝子の変異により、補体活性を適切に調節することができません。そのため、補体系は正常な細胞を攻撃し、上部消化管(口から十二指腸まで)に沿った血液やリンパ管を損傷させ、血中タンパク質の喪失を招きます。米国で確認されているCD55欠損症の患者さんは10人未満です。
同社の独自技術を用いて開発されたVeopozは、補体系の活性化に関わる補体因子C5タンパク質を標的とする完全ヒト型モノクローナル抗体です。野生型および変異型ヒトC5に高い親和性で結合するIgG4というタイプの抗体で、C5の活性をブロックし、補体経路を介する疾患を予防するように設計されています。
治療後は48週でのアルブミン輸血が60回→1回、入院268日→7日
今回のFDAによる承認は、3歳から19歳の患者さん10人(中央値8.5歳)を対象に同剤の有効性と安全性を調べた第2/3相非盲検試験の結果に基づいています。同剤は、1日目に30 mg/kgで静脈内投与され、その後週1回、体重に基づいた用量で皮下投与されました。
その結果、10人の患者さん全員が12週までに血清アルブミンおよび血清IgG濃度の正常化を達成し、少なくとも72週間の治療を通じてこれらの濃度を維持しました。10人の患者さんのうち5人は、治療前の48週間に計60回のアルブミン輸血を受けましたが、治療開始後は、48週間でアルブミン輸血を受けたのは1人で、それも1回だけでした。また、10人の患者さんのうち9人は、治療前の48週間に合計268日間入院しましたが、治療開始後は、48週間で入院したのは2人で、計7日間でした。
命に関わる髄膜炎菌感染症の予防のためにワクチン接種が必要
2人以上の患者さんに発生した最も一般的な副作用には、上気道感染症、骨折、蕁麻疹、脱毛症が含まれていました。
安全性に関わる重要な情報として、同剤による治療を受けた患者さんにおいて、命に関わる重篤な髄膜炎菌感染症が発生しています。髄膜炎菌感染症は、早期に発見して治療しなければ、命を落とすことがあります。そのため、髄膜炎菌ワクチンをまだ受けていない場合は、同剤の初回投与の少なくとも2週間前に髄膜炎菌ワクチンを受ける必要があるとされています。また、過去に髄膜炎菌ワクチンを受けている場合も、同剤での治療開始前に追加のワクチン接種が必要になる場合があります。追加の髄膜炎菌ワクチン接種が必要かどうかは、担当医が判断します。なお、ワクチン接種によって髄膜炎菌感染症のリスクは減少しますが、感染を100%防げるわけではありません。
米国国立衛生研究所(NIH)アレルギー・感染症研究所(NIAID)免疫系分子発生分野のチーフで、臨床ゲノミクス・プログラム共同ディレクターのマイケル・レナルド医学博士は、「今回の臨床試験の治験責任医師として、またこの疾患の発見者の一人として、私はpozelimabがCD55欠損症に長く苦しんできた患者さんたちにおいて、画期的な改善をもたらすことを目の当たりにしました。pozelimabの承認は、その長い苦しみから助けることができる新しい薬を提供する、祝うべきマイルストーンです」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)