カルバマゼピン、多様なタイプの薬疹を予測する指標が求められている
理化学研究所を中心とした研究グループは、抗てんかん薬である「カルバマゼピン」によって生じる重症の薬疹(薬により皮膚・眼・口などに現れる発疹)のうち、スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死融解症には特定のHLAアレル(白血球の上に発現している抗原を決定する遺伝子型)が強く関連することを発見したと報告しました。
スティーブンス・ジョンソン症候群は、38℃以上の高熱を伴い、発疹・発赤、火傷のような水ぶくれなどの激しい症状が、全身の皮膚や粘膜に現れます。原因は、抗菌薬、解熱消炎鎮痛薬、抗けいれん薬といった医薬品であると考えられています。また、中毒性表皮壊死融解症は、スティーブンス・ジョンソン症候群の進展型と考えられており、全身の体表面積の10%を超える火傷のような水ぶくれ、皮膚の剥がれ、ただれなどの重症の皮膚障害が見られます。
カルバマゼピンは、てんかん治療だけでなく躁うつ病の躁状態や三叉神経痛の治療など広く使われていますが、薬疹の発症率が3.7〜13%と非常に高いことが問題となっています。スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死融解症の他にも、薬剤性過敏症症候群、播種状紅斑丘疹型薬疹など多様なタイプの薬疹が存在しその症状もさまざまですが、どの薬疹も後遺症や死亡につながる可能性があります。
これまでに、HLA-A遺伝子にHLA-A*31:01型と呼ばれるHLAアレルを持つ日本人の患者さんは、持たない患者さんと比べてカルバマゼピンによる薬疹が9.5倍起こりやすいことがわかっており、このHLA-A*31:01を用いた薬理遺伝学検査(投薬前に薬疹が起こりやすい患者さんを予測する検査)の有用性が臨床研究で確認されています。
しかし、この検査だけでは全ての患者さんの薬疹発症を予測することができず、また、異なる薬疹のタイプに関連する遺伝要因の違いも不明でした。研究グループは、カルバマゼピンの服用後にスティーブンス・ジョンソン症候群または中毒性表皮壊死融解症を発症した患者さん31人のほか、薬剤性過敏症症候群73人、播種状紅斑丘疹型薬疹17人、多形紅斑10人を含む合計131人の患者さんと、日本人の一般集団2,823人のゲノムDNAを用いて、ゲノムワイド関連解析とHLA遺伝子の解析を行いました。
スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死融解症と関連するHLAアレルを同定
解析の結果、これまでの結果と同様にカルバマゼピンによる薬疹とHLA-A*31:01に最も強い関連が見られました。次に、薬疹の種類別にHLA解析を行ったところ、HLA-A*31:01はカルバマゼピンによる薬剤性過敏症症候群、播種状紅斑丘疹型薬疹、多形紅斑と関連していましたが、スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死融解症とはそれほど強い関連を示さないことが明らかになりました。
その一方で、「HLA-B*15:11」型においてスティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死融解症との統計学的に有意な関連を示すことが明らかになりました。薬剤性過敏症症候群、播種状紅斑丘疹型薬疹、多形紅斑とHLA-B*15:11との関連は有意ではありませんでした。なお、カルバマゼピンによる薬疹を起こした患者さんのうち、HLA-A*31:01もしくはHLA-B*15:11を持っている人は全体の66%でした。
これらの結果から、カルバマゼピンによる薬疹において、HLA-B*15:11を保有する人は、保有しない人に比べてスティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死融解症を発症するリスクが高く、HLA-A*31:01を保有する人はそれ以外の薬疹を発症するリスクが高いことが示唆されました。
研究グループは、同定したHLA-B*15:11とHLA-A*31:01を組み合わせて遺伝子検査を行うことで、カルバマゼピンによる薬疹の発症を回避したり、治療方法が異なる薬疹のタイプ別に早い段階で対処したりすることが期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)