対症療法で現在用いられている治療薬は、腎臓への影響が課題
米国国立衛生研究所(NIH)の国立歯科頭蓋顔面研究所(NIDCR)は、開発中の治療薬エンカレレットについて、常染色体顕性(優性)低カルシウム血症(autosomal dominant hypocalcemia:ADH)1型(以下、ADH1)患者さんを対象とした臨床試験結果を発表しました。
低カルシウム血症は、血液中のカルシウム濃度が非常に低くなることでさまざまな症状が現れます。その中でもADHは、副甲状腺に存在し、血中のカルシウム濃度を感知する「カルシウム感知受容体」の異常が原因の1つとしてあげられる遺伝性疾患です。カルシウム感知受容体の異常により、ADH1患者さんの体では、血中カルシウム濃度が正常でも濃度が「高い」と誤認されます。副甲状腺ホルモンは、カルシウム濃度が「低い」ときに分泌されるため、この疾患では副甲状腺から正常に副甲状腺ホルモンが分泌されなくなり、腎臓から過剰なカルシウムが体外に排出されます。その結果、血液中のカルシウム濃度が低下し、尿中のカルシウム濃度が高くなります。
現在、ADHの根治療法はなく、対症療法によって症状をコントロールしています。その1つに、カルシウム製剤や活性型ビタミンD製剤を用いて血中カルシウム濃度を上げる治療があります。一方で、こうした治療によりカルシウム濃度が上がり過ぎた場合、腎臓の障害につながることがあり、課題となっています。
ADH1患者さん13人対象の治験で、血中カルシウム濃度の改善など確認
今回の臨床試験で用いられたエンカレレットは、カルシウム感知受容体に作用する薬です。
試験はADH1患者さん13人を対象に行われ、対象者は約24週間、エンカレレットを服用しました。その結果、全ての患者さんの血中カルシウム濃度が正常値へと回復し、尿中カルシウムも正常値に近づきました。また、副甲状腺ホルモンの値も正常になりました。その他、重大な副作用は見られず、安全性も確認されました。
一方、副甲状腺ホルモンは、一部のカルシウムを骨から溶出することで血中カルシウム濃度を上げるため、この治療薬による骨格への長期的な影響を評価する必要がある、と研究グループは指摘しています。(遺伝性疾患プラス編集部)