遺伝性間質性肺炎の治療薬候補を発見、疾患特異的iPS細胞を用いた手法で

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 遺伝性間質性肺炎は、呼吸時に酸素を取り込む肺胞上皮細胞が傷害され呼吸機能が低下する病気
  2. 病的バリアントが原因となる小胞体ストレスなどを指標に、肺胞上皮細胞の傷害を治療可能な化合物を探索
  3. 患者さん由来iPS細胞から分化誘導した肺胞上皮細胞や肺胞オルガノイドによる評価で治療薬候補化合物を同定

酸素の取り込みを行う肺胞が傷害され呼吸機能が低下する病気

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)を中心とした研究グループは、疾患に特異的なiPS細胞を用いることで、遺伝性間質性肺炎の治療薬の候補物質を見出したと発表しました。

間質性肺炎は、呼吸時に酸素の取り込みを行う肺胞の表面に存在する「肺胞上皮細胞」が繰り返し傷害を受けることにより、傷の修復を担う線維芽細胞が異常に活性化し、肺胞の壁が固くなり呼吸機能が低下する病気で、運動時の息切れや空咳といった症状から始まり呼吸症状が次第に進行します。

遺伝性間質性肺炎は、肺の表面で空気を肺胞内に取り込みやすくする機能を持つサーファクタントタンパク質の設計図となるSFTPC遺伝子の変異(バリアント)が原因となって引き起こされます。病的バリアントのあるSFTPC遺伝子から作られたタンパク質の構造に異常が生じていることが原因で、小胞体ストレス(小胞体と呼ばれる細胞小器官に異常タンパク質が蓄積することによって引き起こされる現象)やタンパク質凝集体が生じて肺胞上皮細胞を傷つけることが知られていました。

間質性肺炎の治療には、「線維芽細胞を標的」とした病気の進行を抑える薬がありますが、病態形成の引き金となる「肺胞上皮細胞の傷害を標的」とした治療薬はありませんでした。研究グループは、遺伝性間質性肺炎において肺胞上皮細胞を標的とした創薬を進めるため、治療薬の候補となる物質の探索を行いました。

患者さん由来のiPS細胞を用い、治療薬候補の化合物を評価

研究グループは、小胞体ストレスを定量的に評価できる方法を確立し、病的バリアントに起因する小胞体ストレスを減らすことのできる化合物をハイスループットスクリーニングと呼ばれる手法で2,480化合物から探索、同時にその毒性も評価しました。その結果、治療薬の候補となる物質を65化合物に絞ることに成功しました。

次に、これらの化合物を患者さん由来のiPS細胞から分化誘導した肺胞上皮細胞や、肺胞オルガノイドと呼ばれる培養された人工の臓器で効果を評価し、治療薬候補化合物としてCryptotanshinone(CPT)を同定しました。

研究グループは、「患者さん由来のiPS細胞を用いた薬効評価の試みは疾患モデルの限られた間質性肺炎の治療薬開発に有用であり今後の創薬に役立つことが期待される」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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