希少疾患研究に有望なiPS細胞、樹立された種類は少ない
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)を中心とした研究グループは、希少疾患のiPS細胞研究を推進するために、患者さんを大規模に集めiPS細胞を樹立(安定的に培養して研究利用などを可能にすること)する仕組みを構築し、259人の指定難病の患者さんから1,532個のiPS細胞株を樹立することに成功したと発表しました。
希少疾患の定義は国や地域によって異なりますが、その数は7,000以上とも言われています。希少疾患は、多くの場合において患者数が少ないことから研究が十分に進まず、診断や治療戦略の確立が遅れ、適切な治療を提供することが困難です。
そうした中、希少疾患の診断や治療法開発にiPS細胞を利用した疾患モデリング(疾患の状態を模倣して研究に用いること)が注目されています。患者さんの細胞から作製されたiPS細胞は、患者さんと同じ遺伝情報をもつため、希少疾患の大部分である遺伝性疾患の研究に適しており、iPS細胞などから複雑な臓器や特定の細胞へ分化させるような培養技術や分化誘導法についても研究が進んでいます。
しかし、希少疾患の数に比べて、これまでに樹立されたiPS細胞の種類はまだ少なく、幅広い希少疾患に対して研究が可能な体制を整備するためには、さらに多くの希少疾患のiPS細胞を樹立する必要がありました。
研究グループは、このような背景を踏まえ、希少疾患の研究を推進するために、日本で特定の希少疾患に指定されている指定難病対象疾病について、患者さん由来のiPS細胞の樹立に取り組みました。
指定難病患者さん259人から1,532個のiPS細胞株を樹立
研究グループはまず、指定難病の患者さんを募集して研究に関する説明を行い、同意を得た後に血液を採取し、そこからiPS細胞を樹立しました。そして、樹立されたiPS細胞を最終的に細胞バンクへ寄託するまでの一連の仕組みを確立しました。
結果として、139の指定難病について、259人の患者さんの血液から合計1,532個のiPS細胞株を樹立することに成功しました。樹立ができなかった症例はありませんでした。iPS細胞株を樹立した疾患は、国際疾病分類(ICD-10)の幅広い疾患カテゴリーに分類され、最も症例数が多かったカテゴリーは「先天奇形、奇形、染色体異常」でした。
樹立したiPS細胞を評価したところ、すべてのiPS細胞株は一般的なヒト多能性幹細胞と同様の形態を示しており、未分化多能性幹細胞で発現するOCT3/4とNANOGの発現レベルは細胞株ごとに大きなばらつきが観察されましたが、発現していない細胞株はありませんでした。また、樹立に使用したベクター(遺伝子導入のための分子)の残存は無視できるレベルであることがわかりました。
樹立されたiPS細胞株は、さまざまな研究者が希少疾患の研究に用いることができるよう、公的な細胞バンクである茨木県つくば市の「理化学研究所バイオリソース研究センター(理研BRC)」に寄託され、研究者が希少疾患の研究のために入手することが可能になりました。
研究グループは、今後も指定難病を含む希少疾患のiPS細胞の樹立、評価、寄託に向けた継続的な取り組みを進めていく、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)