進行性家族性肝内胆汁うっ滞症1型、脂肪肝炎発症の分子メカニズム解明

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 進行性家族性肝内胆汁うっ滞症1型(PFIC1)は、肝移植後に脂肪肝炎を発症することが多い
  2. PFIC1の原因遺伝子ATP8B1を腸管上皮細胞だけで欠損させたマウスで脂肪肝炎発症
  3. 腸管上皮のATP8B1がコリンの吸収に関連と判明、コリン補充でマウスの脂肪肝炎消失

肝移植後に脂肪肝炎を発症、その機序は不明

東京大学を中心とした研究グループは、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症1型(PFIC1)の原因遺伝子として知られるATP8B1が、必須栄養素であるコリンの吸収経路に関連していることを明らかにしたと報告しました。

ATP8B1遺伝子の変異が原因となるPFIC1は、胆汁うっ滞性肝障害が引き起こされる遺伝性疾患です。最終的に肝硬変に至り、肝移植が実施されますが、PFIC1では肝移植後に脂肪肝炎が起こり、グラフト(移植された臓器)の機能不全に至る場合があることが知られています。この病気の病態発症の機序は不明で、治療法は確立されていません。

研究グループは、PFIC1において肝移植後に脂肪肝炎を発症することに着目し、その原因を調べました。ATP8B1遺伝子から作られる膜タンパク質ATP8B1は多くの組織で働くことから、研究グループはさまざまな種類の細胞において、各種類の細胞だけでATP8B1が欠損するマウスを作り、解析を行いました。

腸管上皮細胞におけるATP8B1の欠損でコリン吸収経路が破綻

その結果、腸管上皮細胞だけでATP8B1を欠損させたマウスでは、肝移植後のPFIC1患者さんと同様に脂肪肝炎を発症することが確認されました。

さらに、このマウスについて詳細な解析を行ったところ、リゾホスファチジルコリンと呼ばれる物質が腸管上皮細胞で蓄積していること、血液や肝臓では、遊離型コリンとその代謝物が減少していることがわかりました。そのマウスから腸管上皮細胞を採取して調べた結果、リゾホスファチジルコリンの取り込みが低下しており、ATP8B1が腸管上皮細胞でリゾホスファチジルコリンの吸収を担っていること、また、ATP8B1を介した腸管でのリゾホスファチジルコリンの吸収が、必須栄養素コリンの主要な体内への供給経路である可能性が示唆されました。

コリンは水溶性のビタミン様栄養素で、細胞膜の主要成分や、神経伝達物質の原材料となります。通常食事から摂取されたリン脂質と呼ばれる物質が、リゾリン脂質、遊離型コリンなどに分解吸収され体内に取り込まれると考えられています。しかしその吸収に関わる分子機構は明らかになっていません。コリンの欠乏は脂肪肝を引き起こすことが知られ、米国では必須栄養素として指定され、1日の摂取量目安が設定されています。

また、腸管上皮細胞だけでATP8B1を欠損させたマウスにおいて、遊離コリンの吸収は正常でした。そこで研究グループは、このマウスに遊離コリンを補充した餌を与えてみたところ、脂肪肝炎が消失することが明らかになりました。さらに、PFIC1の患者さんの血液でコリン欠乏が確認されたことから、今回の研究成果はヒトにも適用できる可能性があると示唆されました。

研究グループは、「コリンの主要な体内への供給経路の破綻により発症する脂肪肝炎は、コリンの補充により治療できる可能性があり、現在PFIC1を含むATP8B1の機能低下が関連する疾患を対象にした臨床試験の準備を進めている」と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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