NTEという酵素の設計図となる遺伝子の変異で起こる神経変性疾患
米国国立衛生研究所(NIH)は、同研究所を中心とした研究グループが、PNPLA6遺伝子に関連するさまざまな神経変性疾患(運動機能、視覚、ホルモン調節に影響するさまざまな疾患を含む)の根底にある複雑な分子メカニズムを明らかにしたことを発表しました。
PNPLA6関連疾患は、神経細胞内の脂質代謝と膜安定性の調節に関わる酵素「ニューロパチーターゲットエステラーゼ(NTE)」 が、遺伝子変異により正常に働けなくなることで生じます。例えば、有機リン誘発性遅発性ニューロパチー、遺伝性痙性対麻痺、Boucher-Neuhäuser(ブーシェ・ノイホイザー)症候群、Oliver-McFarlane(オリバー・マクファーレン)症候群などが挙げられます。
100人以上の患者さんのデータを綿密に調べて解明
今回、NIH の国立眼科研究所 (NEI) 眼科・視覚機能部門の Robert Hufnagel 医学博士らは、PNPLA6遺伝子に変異を持つ 100 人以上の患者さんのデータを系統的にレビューし、分析を行いました。具体的には、神経画像、電気生理学的研究 (神経細胞の電気信号を測定・分析して、その機能と特性を理解する)の結果、遺伝子検査の結果を用い、運動機能、視覚、ホルモン発現を綿密に評価しました。
その結果、症状の重症度は、DNAを構成するヌクレオチド(アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G))のどれか1つが変化したことで、タンパク質を構成するアミノ酸が変化する「ミスセンス変異」によって引き起こされることが明らかになりました。また、こうした変異が、PNPLA6遺伝子のどの部分で発生するかによって、NTEの働きへの影響が異なるということもわかりました。
今回の研究では、実際の患者さんで見られたのと同じミスセンス変異を持つマウスモデルも作製されました。また、PNPLA6の変異の種類を病気の重症度に応じて分類するための一連のテストも開発されました。作ったマウスでこれらのテストを実施したところ、NTE の働き(活性)と PNPLA6 関連症状の重症度の間に相関関係があることが確認されました。
今回の研究により、PNPLA6に関連する病態の、臨床的、遺伝学的、そして分子レベルで理解が深まり、個別化診断・治療への道が開かれることが期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)