小児期に下肢のジストニアより発症、早期診断が有用
東北大学を中心とした研究グループは、遺伝性ジストニア「DYT-KMT2B」の患者さん由来の口腔粘膜サンプルを用いて、「H3K4me3」というマーカーが有意に低下していることを突き止めたと発表しました。
遺伝性ジストニアDYT-KMT2BはDYT28とも呼ばれ、KMT2B遺伝子変異によって引き起こされる遺伝性疾患です。ジストニアとは、体の筋肉が自分の意図と関係なく過剰に緊張して異常な姿勢や運動が引き起こされる状態のことで、DYT-KMT2Bは小児期に下肢のジストニアより発症します。DYT-KMT2Bは比較的まれな疾患ですが、遺伝性ジストニアの中では高頻度で発症することが知られています。
この病気の根本的な治療法はまだ存在していませんが、発症早期に治療が行われることによって歩行の能力を含めた運動機能の予後が改善することがわかっており、早期の診断が有用となっています。しかし、その診断には全エクソーム解析やメチル化DNA解析など次世代シーケンサーを用いた解析が必要で、簡便な診断方法がないという課題がありました。
研究グループは、DYT-KMT2Bの簡便なスクリーニング法を開発するため研究を行いました。
運動症状出現からの期間が短いほど口腔粘膜のH3K4me3が低下
KMT2B遺伝子は、DNAを巻き付けるヒストンH3タンパク質に対してメチル化と呼ばれる化学修飾を行い、H3K4me3を形成させる酵素、KMT2Bの設計図です。このH3K4me3への変化は遺伝子の働きを制御する重要な過程です。H3K4me3が減少すると、関連遺伝子の機能が失われます。この過程は多くの細胞で重要なため、KMT2B以外にも同様の機能を持つ酵素が5種類存在し、細胞によって使い分けられています。
研究グループは、インフォマティクス解析(大量のデータをコンピュータで解析し有用な情報を見つけ出す方法)を用い、H3K4me3に対してKMT2Bが良く使われている細胞の種類を探したところ、口腔粘膜を構成する細胞がこの条件に該当することがわかりました。
そこで、DYT-KMT2B患者さん12人と、健康な人12人の口腔粘膜由来サンプルを用いて、H3K4me3を調べたところ、DYT-KMT2B患者さんのグループで有意に低下していることがわかりました。さらに、この傾向はDYT-KMT2Bの運動症状出現(ジストニア発症)からの期間が短いほど強く見られ、発症早期に疾患であるかを予想するために優れていることがわかりました。
研究グループは、H3K4me3低下の傾向は発症早期でより強くみられることや、この方法が簡便で侵襲性が低いという特性から、本疾患の早期診断スクリーニング検査への応用が期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)