座談会「納得する治療選択 ~医療者とのスムーズなコミュニケーションのために大切なこと~」第1回:遺伝性疾患におけるヘルスリテラシー

遺伝性疾患プラス編集部

  • 2024.11.25 公開

POINT

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    近年、目覚ましい医療の進展とともに、遺伝性疾患に対する新しい検査や治療法の開発も進み、実際の診療現場で使われるようになりました。選択肢が増え、また、価値観の多様化などにより、かえって患者さんが悩むこともあるようです。

    そこで、遺伝性疾患の患者さんやその周囲の方が医療者とのコミュニケーションをよりスムーズに行うために大切な要素としてヘルスリテラシー・共同意思決定(Shared decision making;SDM)・遺伝カウンセリングをピックアップ。聖マリアンナ医科大学病院遺伝診療部 部長(教授)の右田先生と、血友病を専門にされている同大学病院小児科 主任医長(講師)の長江先生、看護師の吉川さんに解説していただきました。

    第1回のテーマは、遺伝性疾患におけるヘルスリテラシーです。

    30年以上にわたり、遺伝性疾患を含む希少疾病の患者さんに重要な治療選択肢を提供してきたファイザー。患者さんが納得する治療を選択する一助にしていただくために、ヘルスリテラシーについて漫画でわかりやすく説明した冊子(解説編・コミュニケーション編)を作成しています。下記から無料でダウンロード(PDF)いただけますので、どうぞご活用ください。

    【解説編はこちらから】

    【コミュニケーション編はこちらから】

    最初に、ヘルスリテラシーについて簡単に教えてください

    長江先生 ヘルスリテラシーは、「健康や医療に関する正しい情報を入手・理解して、評価・意思決定する力」のことです。ヘルス(health)は「健康」ですね。リテラシー(literacy)は元々「読み書き能力」という意味ですが、そこから派生して「正しい情報を入手して適切に活用する」といった意味合いになります。

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    聖マリアンナ医科大学病院小児科 主任医長(講師) 長江千愛 先生
    なぜ、ヘルスリテラシーが医師や医療者とのコミュニケーションで重要なのですか?

    長江先生 ヘルスリテラシーは、患者さんやご家族など周囲の方々と医師・医療者間のコミュニケーションを取るうえでの前提になることがあるので、重要だといえます。

    もし、ある病気に対して良い治療法が1つしかなければ医師はそれを勧めます。患者さんもその治療を「受ける/受けない」の選択になるので、コミュニケーションはシンプルになるでしょう。しかし、治療法が複数あってその中から選べる場合、最も良い治療は症状や検査値のほか、患者さんの思い・考え・心身の状態・生活スタイル・学業や仕事の状況などによって変わります。言い換えれば、医師や医療者が持ちうる情報だけでは、個々の患者さんにとってベストの治療が判断しにくくなっています。

    私は遺伝性疾患のひとつである血友病の専門医ですが、血友病に対する新薬も登場していて、さまざまな治療法の中から選べる時代になりました。医師や医療者の判断だけではなく、病気や治療に関する正しい情報をもとにして、理解したうえで、患者さんやその周囲の方々と一緒に治療方針を決めていくことが増えています。

    ヘルスリテラシーが前提のコミュニケーションにより、患者さんやご家族など周囲の方々はどのようなメリットが得られますか?

    長江先生 総じて、患者さんのためになると思います。

    患者さん・周囲の方々が自分の健康・病気・治療について興味を持って調べて伝えていただけると、医師は診察時に患者さんの考えや望んでいることが把握しやすくなりますから、患者さんも医療者も、よりフラットな立場でベストの治療について話し合うことができます。血友病のお子さんのケースで例をあげると、「中学・高校でどんな部活動をしたいか」をお話いただければ、医師はご要望に応じた治療を提案しやすくなります。希望・将来像なども、治療を選ぶ上で大切な情報になりますね。

    また、医療者からの話が一方的ではなくなります。医師も病気や治療のことをきちんと伝えられる実感がもてますから、助かります。

    患者さんやご家族など周囲の方々が病気の勉強をすることに関して、どのようにお感じですか?

    長江先生 最近は医療者に限らず、一般の方々でもインターネットで医学的な診療ガイドラインを閲覧できるようになりました。

    医療の世界には「チーム医療」という言葉があります。患者さんを中心にして、医師や看護師・薬剤師などのメディカルスタッフが患者さんを支えていく体制を表現しているのですが、診療ガイドラインの閲覧が可能になったことなどで、患者さん自身が積極的にチームの一員として治療に参加する時代が来たのだな、と感じています。

    【コラム】多くの診療ガイドラインは、「Mindsガイドラインライブラリ」で閲覧できます。

    公益財団法人 日本医療機能評価機構:Mindsガイドラインライブラリトップページ 2024年11月12日更新

    https://minds.jcqhc.or.jp/

    2024年11月14日参照

    長江先生のお話からすると、ヘルスリテラシーを高める第一歩は情報収集をすることだと思われますが、注意点がありますか?

    右田先生 収集した情報の信頼性をよく吟味することが大切です。情報といっても客観的な事実であるのか、記載した方の感想であるのか、根拠となるデータは現時点で正しいものと思われているものであるのか、といったことに注意が必要です。

    今、情報収集はインターネットが中心になりました。しかし、インターネットの情報は誰が書いているかわからない情報だったり、書いてあることが全ての人に当てはまることではなかったりします。ある病気について調べていくと、調べている病気とは関係のない問題や症状がごちゃ混ぜになって書かれていることもあります。記載された時点では正しいと思われたデータも、現在では否定されている場合もあります。情報の内容に妥当性や信頼性があるのか、その吟味はとても重要だと思います。

    遺伝性疾患だと、ご家族の病気の情報を確認することがあるでしょう。その際には、記載の正確性が重要です。どのような診断を受け、治療を受けたのか、そしてどのような立場からその情報を書き残しているのか――といったことを確認し、信頼できるかどうかを考える必要があります。

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    聖マリアンナ医科大学 臨床検査医学/聖マリアンナ医科大学病院 遺伝診療部部長(教授) 右田王介 先生

    情報収集にあたって、遺伝性疾患の患者さんやご家族が直面する問題点はどのようなことでしょうか?

    右田先生 遺伝性疾患の診療では、患者さんや周囲の方々にとってわかりにくい内容に直面することが多いと思います。

    たとえば、遺伝子検査です。遺伝性疾患の診断をつける目的などで遺伝子検査を行うのですが、遺伝子検査は診断への道筋を完璧に示してくれるわけではありません。遺伝子に変化があれば診断が確定するとは限りません。そのことを理解していないと、検査結果や医師の説明を見聞きしても混乱してしまうでしょう。

    また、何らかの症状が出てきたとき、その疾患の症状ではなくても、そのことを知らなければ「遺伝性疾患が発症・再発した」と思い込み、落ち込んでしまうこともあります。

    長江先生 遺伝性疾患には希少疾患も多いのですが、希少疾患だと知識や経験を有する医師が少ないのが現状です。血友病も希少疾患ですから、患者さんには、幼少期から「医師が全員血友病の知識を持っていると思わないように。医師よりお母さん・お父さんの方が知識と経験を持っているよ。血友病に関してはお手伝いできるけど、自分でも勉強して、理解してみてね」と伝えています。

    遺伝性疾患全般でヘルスリテラシーを高めるためには大切なことは何ですか?

    右田先生 遺伝性疾患に興味を持ち、よく知っていただくことが大切だと考えます。遺伝性疾患は誰でもかかりうる疾患であり、社会で活躍している方も数多くおられます。医薬品の進歩やサポートの改善によって、さらに状況がよくなっています。だからこそ、患者さん自身が子どもから成長して大人になった時に、自分自身で生活や治療を選び取っていくために、自分の病気のことを知っておくことが重要ですし、将来、家族に遺伝性疾患に関する情報を共有する必要性を理解していくことにもつながります。

    患者さんが遺伝性疾患を「周囲に知られてはいけない、隠さなくてはならない」と思ってしまうこともあります。「ヘルスリテラシーそのものを高めることが大事である」と、ご質問と回答とが循環したお話になってしまいそうですが、遺伝性疾患はその原因となるものをみんなが持っていますから、社会全体にも遺伝性疾患のことを広く知っていただき、決して差別や偏見を受けることではないことを認知してもらうことが大切です。

    吉川さん 次世代に遺伝性疾患のことを伝えるのは重要です。病気の症状が出ているときは症状改善に目が向きがちで、その先まで考えられません。血友病であれば、子どもに保因者*の可能性があることなどを家族間で伝えていただくイメージです。

    *保因者=疾患の原因となる変異のある遺伝子を持っているが、疾患の症状が発症していない人

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    聖マリアンナ医科大学 看護師(血友病専門) 吉川喜美枝 さん
    患者さんや周囲の方々と接していて、ヘルスリテラシーの重要性を感じることがありますか?

    吉川さん 私も長江先生と同じく血友病を専門にしています。あえて“ヘルスリテラシー”と意識をしているわけではないのですが、血友病患者さんとの会話の中で思うことはあります。

    その最たる例は、血友病の保因者の方が妊娠・出産されるときです。通常、血友病の保因者はあまり症状がないので忘れられがちになります。赤ちゃんが血友病の可能性があることを理解したうえで出産していただくのが理想です。

    長江先生 保因者の出産では、保因者自身と赤ちゃんの両方を(血友病の症状の一つである)出血から守らなければなりませんが、保因者の情報が周知されていなければ医療者は対応できません。ただ、保因者であることを言い出しにくかったり、そもそも自分が保因者だと知らなかったりするため、患者さんからの情報提供が重要になります。患者さんがこのような情報を「医療者に知らせよう」と考えるきっかけも、ヘルスリテラシーが元になります。

    吉川さん 家族背景などは患者さんのほうがよく理解しているので、家族でお考えいただきたいです。一方で、私たち医療者は患者さん任せにするのではなく、患者さんのヘルスリテラシーを高めるサポートをして、皆で一緒にヘルスリテラシーを上げていくことが重要です。書面で説明すると、理解が進むように思います。

    ヘルスリテラシーを元にして、患者さんと医療者のコミュニケーションがよりスムーズになり、お互いの信頼関係を高めていくことが理想的な形といえそうです。


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    提供:ファイザー株式会社

    2024年11月作成
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