α1-アンチトリプシン欠乏症(AATD)のRNA編集治療、臨床試験で肯定的なデータ

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. AATDのRNA編集治療薬候補WVE-006を評価する臨床試験結果を発表
  2. 患者さん2人に単回皮下投与、57日目まで正常α1-アンチトリプシン量レベル増加を確認
  3. 試験は進行中、現在までにWVE-006投与による重篤な有害事象の報告はなし

SERPINA1遺伝子の点突然変異により肺疾患・肝疾患が引き起こされる

米国Wave Life Sciences社は、α1-アンチトリプシン欠乏症(AATD)を対象にRNA編集オリゴヌクレオチド治療薬候補「WVE-006」を評価する第1b/2a相RestorAATion-2試験について、作用機序を証明する肯定的なデータが得られたことを発表しました。同試験は現在進行中で、WVE-006はヒトに対する初めてのRNA編集治療薬候補です。

AATDは、SERPINA1遺伝子変異によって正常なα1-アンチトリプシン(AAT)が作られないことで引き起こされる遺伝性疾患です。AATDは、多くの場合、SERPINA1遺伝子の塩基配列のうち、特定の場所にあるGがAに置き変わる点突然変異が原因となります。この突然変異はZアレルと呼ばれ、Zアレルが原因で作られた異常なAATは、肺を保護する機能を失い肺疾患の原因となるとともに、肝細胞内に凝集して肝疾患の原因にもなります。

現在、AATDの治療選択肢は、肺疾患に対しては正常なAATタンパク質を補充する週1回の補充療法のみとなっており、毎週の静脈内注入が必要です。肝疾患に対しては、肝移植以外の治療法はありません。

WVE-006は、A-to-IRNA編集オリゴヌクレオチドと呼ばれる、RNA編集の技術を用いた治療薬候補です。RNA編集とは、DNAから転写されたRNAの塩基配列を、変更したり削除したりする機構を利用した技術。体内に存在する酵素(ADAR)を利用して、変異したSERPINA1遺伝子から作られたmRNAに存在するZアレルを修正するように設計されています。修正されたmRNAからは、機能するAATタンパク質の生成が期待されます。また、WVE-006はAATDによる肺疾患・肝疾患の両方に対処するように設計されています。

正常なα1-アンチトリプシンタンパク質量の割合、全体の60%以上まで増加

RestorAATion-2試験では、Zアレルを2つ持っている(ホモ接合型ZZ)AATD患者さん2人において、WVE-006がそれぞれ1回皮下投与されました。その結果、血中においてすべてのAATタンパク質量が増加し、変異のない正常なAATタンパク質の割合は平均で60%以上を占めていました。また、ベースライン(治療前)からのこれらのタンパク質の増加は、投与3日目から57日目まで継続的に観察されました。

WVE-006の安全性プロファイルおよび忍容性は良好で、RestorAATion-2試験と、健康なボランティアによるRestorAATion-1試験(現在も進行中)において発生した有害事象は全て軽度から中等度であり、これまでに重篤な有害事象は報告されていません。

RestorAATion-2試験は現在も進行中で、同社は2025年に多用量データを報告予定、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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