胎児期に脳の発達が不完全であることから生じる小頭症
東北大学を中心とした研究グループは、小頭症を引き起こす新規の分子として「KIF23」の機能を明らかにしたと報告しました。
小頭症は、新生児の頭の大きさが平均と比較して著しく小さい、もしくは出生後に頭の成長が停止する疾患です。脳は、胎児期において神経幹細胞という幹細胞が分裂して増殖し、その後、適切なタイミングで神経細胞に分化することで大きく発達していきます。小頭症は、子宮内感染症や遺伝子変異などの原因により、脳の発生や発達が不完全であることから起こるとされていますが、詳細な病気の特徴や原因となるメカニズムはわかっていません。
これまでに、小頭症の患者さんにおいて、KIF23遺伝子に変異があることが報告されていました。この遺伝子は、モーター分子であるキネシンスーパーファミリータンパク質(KIF)のひとつであるKIF23タンパク質の設計図として働きます。モーター分子とは、細胞内の物質を決まった方向へと運搬する機能をもつタンパク質で、細胞分裂にも重要な役割を持っています。しかし、KIF23が胎児の脳においてどのように働くのかはわかっていませんでした。研究グループは、このKIF23遺伝子変異と小頭症の関係について明らかにするため、マウスを用いた解析を行いました。
Kif23阻害で神経幹細胞の分裂が垂直でなく水平方向に進み、幹細胞が保たれなくなる
研究グループは、マウスの胎仔(たいし、ヒトにおける胎児)の脳を解析し、分裂する神経幹細胞の紡錘体(細胞分裂時に形成され、染色体を正しく分離する役割を担う細胞内構造)に、マウスにおけるヒトKIF23と同等の分子(Kif23)が局在していることを発見しました。
そこで、生体内でのKif23の機能を調べるため、子宮内電気穿孔法と呼ばれる方法でマウス胎仔の神経幹細胞に存在するKif23の機能を直接阻害する実験を行いました。
その結果、Kif23の阻害により、神経幹細胞の分裂に異常が生じることがわかりました。
神経幹細胞は、細胞分裂時の分裂面(細胞が2つに分かれる境界となる面)が垂直方向だと分裂後も神経幹細胞のまま維持されますが、分裂面が水平方向の場合には神経細胞へと分化します。Kif23が阻害されると、分裂面が垂直面から水平面へと変化し、早期に神経細胞へと分化してしまうことが明らかになりました。早期に分化した神経細胞は、細胞死(アポトーシス)へと向かうと示唆されました。
さらに、ヒトの小頭症患者さんで発見されたKIF23遺伝子の変異が、小頭症を引き起こす原因となっているのかを明らかにするため、Kif23機能を阻害したマウスに、発見された変異を持つKIF23遺伝子(ヒト小頭症変異型KIF23)を神経幹細胞内で強制的に発現させる実験を行いました。遺伝子変異のないヒトのKIF23遺伝子(ヒト正常型KIF23)を発現させた場合と比較したところ、ヒト正常型KIF23は、Kif23機能阻害による異常な神経細胞分化を回復することができましたが、ヒト小頭症変異型KIF23では十分な回復が見られないことがわかりました。これらの結果から、KIF23遺伝子変異によって適切な脳の発生発達が妨げられ、小頭症が引き起こされる原因となっていると考えられました。
研究グループは、小頭症の治療法は確立されておらず、治療困難な疾患への遺伝子治療がより発展すれば、小頭症の治療標的として役立つことが期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)