ヘムライブラを基に2つの独自技術を組み込んだバイスペシフィック抗体
中外製薬株式会社は、血友病Aを対象とする臨床試験において、皮下投与製剤として開発中の治療薬「NXT007」が年間出血率を大きく改善し、正常レベルの血液凝固能をもたらす可能性を示唆したと発表しました。
血友病は、血液凝固因子の働きが不足することにより出血が止まりにくくなる先天性の希少疾患で、血友病Aは、第VIII因子の欠損または機能異常により引き起こされます。
NXT007は、血友病Aで広く使用されているヘムライブラ(一般名:エミシズマブ)を基に、開発されている新しいタイプの治療薬です。NXT007は、バイスペシフィック抗体(2種類の異なる標的に同時に結合できる抗体)という仕組みを使用し、活性型第IX因子と第X因子の両方に結合することで、欠損している第VIII因子の機能を代替します。NXT007の最大の特徴は、抗体の効果をより強化する「FAST-Ig技術」、薬が血液中により長く留まるようにする「ACT-Ig技術」という2つの独自技術が組み込まれていることです。これらの技術により、血友病でない方と同等の血液凝固能と簡便な投与を目指し、同じ投与量でもより高い治療効果が期待できるよう設計されています。
インヒビター非保有の重症患者対象、4パターンの投与量を比較
NXTAGE試験は、NXT007の安全性、薬物動態(体の中で薬がどのような動きをするか)、有効性などを評価する多施設共同第1/2相臨床試験です。今回結果が発表されたパートBでは、12歳から64歳の重症血友病A患者さん(ヘムライブラによる治療を受けておらず、インヒビターを保有していない患者さん)を対象に、参加者をB-1からB-4の4つのコホートに分け、それぞれ異なる投与量でNXT007の効果が検証されました。
結果として、NXT007の血中濃度は投与された量に比例して増加することが確認されました。特に高用量のコホートB-3およびB-4では、予測される健常者レベルの血液凝固能に相当する血中濃度に到達しました。
年間出血率については、試験開始前24週間のデータと比較して劇的な改善が見られました。具体的には、コホートB-1では試験前の年間出血率12.83が維持投与期には1.20に、コホートB-2では2.17が0.28に減少しました。さらに、高用量のコホートB-3とB-4では、試験前にそれぞれ5.44、2.72だった年間出血率が、維持投与期にはどちらも0となりました。
3つの第3相臨床試験が2026年から開始予定
パートBにおいて、NXT007の安全性は良好な結果を示しました。投与量が多くなっても副作用が増えるということはなく、薬の投与を中止しなければならないような重篤な副作用や、NXT007が原因となる重大な有害事象は発生しませんでした。また、血友病治療で懸念される血栓(血の塊ができること)による合併症も認められず、安全に使用できることが確認されました。
NXT007は、2022年8月にスイスのロシュ社が導入を決定しました。現在実施中のNXTAGE試験(第1/2相)に加えて、2026年からは3つの第3相臨床試験が開始される予定です。(遺伝性疾患プラス編集部)