男性に多く見られ、致死的な不整脈を引き起こすことがある疾患
京都大学を中心とした研究グループは、突然死の原因となるブルガダ症候群について、女児では思春期以降に症状が改善することを世界で初めて明らかにしたと報告しました。
ブルガダ症候群は、心室細動などの致死的な不整脈を引き起こす可能性のある遺伝性疾患で、約15%〜20%の患者さんで心筋細胞のナトリウムチャネルの遺伝子異常が検出されます。また、この疾患では特徴的な心電図所見(ブルガダ型心電図)が見られ、それをもとに診断されます。患者さんは中年の男性に多く、日本では夜間の突然死(ポックリ病)の原因の一つとして知られています。しかし、致死的な不整脈を完全に予防する治療薬はまだ開発されておらず、不整脈発作時に電気ショックで救命を行う植込み型除細動器の埋め込みが主な治療法となっています。
これまで、ブルガダ症候群が男性に多く見られる理由として、男性ホルモン(テストステロン)が心筋細胞に影響を与えるのではないかと考えられてきました。一方、小児の患者さんでは性差があまり見られないことも報告されていましたが、小児の患者さんの報告は非常に少ないことから、詳細な病態はわかっていませんでした。
女児患者さんは、11歳以降に診断数が減少し致死的不整脈の発症も見られなくなる
研究グループは、京都大学、滋賀医科大学、国立循環器病研究センターで構築している遺伝性不整脈レジストリー(患者さんの情報を登録したデータベース)から20歳以下のブルガダ症候群患者さんのデータを抽出し、その情報を解析しました。
この中で特に、10歳以下でブルガダ症候群と診断され、思春期が始まる11歳以降でも心電図が記録されている患者さんに着目し、心電図の変化を評価しました。その結果、女児患者さんの半数以上で11歳以降にブルガダ型心電図波形が改善する現象が認められました。
さらに、女児患者さんでは11歳以降にブルガダ症候群と診断される数が減少すること、致死的不整脈の発症も認められないことがわかりました。一方、男児患者さんでは、このように思春期後にブルガダ型心電図が改善する症例は認められませんでした。
思春期後の女性患者さんで見られた心電図の改善は、思春期に大きく変化する女性ホルモンの影響と考えられ、ブルガダ症候群に対して女性ホルモンが保護的に作用する可能性が示唆されました。
今回の研究では女性ホルモンの血中濃度を直接測定していないため、今後さらに詳しい調査が必要であるものの、研究グループは、特に思春期前の小児患者さんでは性差を考慮した治療方針の選択が重要になる可能性がある、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)