難病と仕事、レックリングハウゼン病と潰瘍性大腸炎とともに

遺伝性疾患プラス編集部

仕事と治療の両立は、決して簡単なものではありません。特に、遺伝性疾患など、社会での認知度に課題のある病気であれば、まず「相手に、病気を知ってもらうこと」が必要です。そういった職場でのコミュニケーションで、苦労された経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?

今回は、2つの難病を抱えながら働く当事者の体験談をご紹介します。お話を伺ったのは、神経線維腫症I型(レックリングハウゼン病、以下、NF1)と潰瘍性大腸炎を持つ、倉持おりぶさんです。

NF1は、皮膚にカフェ・オ・レ斑というミルクコーヒー色の色素斑や、神経線維腫という腫瘍などの症状が現れる遺伝性疾患です。特に、神経線維腫は思春期頃から少しずつ現れるようになり、個数や大きさは個人差があるとされています。倉持さんの場合は、顔の左側に神経線維腫が現れ、中学生の頃から手術などの治療を受けてきました。

牧師になるという夢を追いかけて、現在はキリスト教会の伝道師として働く倉持さん。そんな中、2021年7月に突然、潰瘍性大腸炎の診断を受けました。潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜で広範囲に連続した炎症が起こる疾患で、NF1と同じく国の指定難病対象疾病です。代表的な症状は、慢性的な腹痛、下痢、血便などで、日々の食事にも注意が必要となる病気です。(詳細は、QLife「IBDプラス」をご覧ください)

「見える病気」のNF1と、「見えない病気」の潰瘍性大腸炎を抱えながら、倉持さんはどのように仕事と向き合っているのでしょうか?これまでのご経験もあわせて、お話を伺いました。

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倉持おりぶさん

NF1と潰瘍性大腸炎の診断を受ける。キリスト教会の伝道師として働く。

NF1は生後3か月で、潰瘍性大腸炎はコロナ禍で診断を受ける

NF1の診断は、どのように受けられましたか?

診断を受けたのは生後3か月の頃だったと、両親から聞いています。病気の疑いがあった中、父の友人の小児科と皮膚科の医師のおかげでカフェ・オ・レ斑が見つかり、診断に至ったそうです。

私の病気について、母は本当に悩んだと聞いています。母を含め、家族みんなが私の出産を喜んでくれていた中で、病気がわかったことによる葛藤は大きなものだったそうです。

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倉持さんとお母さん
潰瘍性大腸炎の診断についても教えてください。

潰瘍性大腸炎の診断を受けたのは、2021年の7月です。ただ、その前から症状が現れていました。最初に症状が出たのは2020年4月頃で、ちょうど、新型コロナウイルスの感染拡大によって最初の緊急事態宣言が発出され始めた頃でした。

当時、血便などの症状が現れており、大腸内視鏡検査の検査を受けることが決まっていました。ただ、私が「大腸内視鏡検査、受けるのは怖いな…」と思い、延期することに。時間が経ってもなお症状が続いたので、大腸内視鏡検査時に鎮静薬を使用する施設を調べ、検査を受けました。そして、潰瘍性大腸炎と診断されたんです。

当時は、潰瘍性大腸炎という病気を知りませんでしたし、何より、自身の難病が2つになったことに、驚きました。全く予想していなかった事態になり、戸惑ったことを覚えています。

中学生時代の手術で葛藤も…次は、自分が誰かの力になりたい

現在のお仕事の内容について、教えてください。

キリスト教会の伝道師として働いています。これから試験を受けて資格を取得し、牧師や神父といった立場になります。ですので、お仕事内容は、キリスト教の教えを伝え広めるために、聖書のお話をすることが中心です。日曜日は教会で、平日はキリスト教学校や福祉施設の礼拝で聖書のお話をしています。

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キリスト教会の伝道師として働く、倉持さん

その他、キリスト教の視点から相談を受ける牧会カウンセリング、お誕生日の方のお祝いや病気の方のお見舞いなどを行う訪問、冠婚葬祭の業務、地域との関わりを目的としたイベントの企画などを行います。そのため、内勤の日もあれば、外勤の日もあるというお仕事です。

いつ頃、牧師さんになろうと決意されたのですか?

はい。ずっと牧師として働きたい想いがあり、あきらめきれずに、一般の4年生大学を卒業後、すぐに牧師などを養成する大学に再入学し、チャレンジすることにしました。幼い頃から、キリスト教は身近な存在で、自分にとっては拠り所だったからです。

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「幼い頃からキリスト教は身近な存在で、拠り所だった」と、倉持さん。

両親がクリスチャンだったので、幼い頃から教会に通い、聖書のお話を聞いていました。幼い頃は、純粋に聖書のお話を聞くのが好きで教会に通っていたのですが、いつしか、ありのままの自分を受け入れてもらえる拠り所となっていったんです。

その背景には、NF1が関わっていました。というのも、中学生、高校生となるにつれて、NF1による症状で悩むようになったんですね。多感な思春期時代ですから、外見に現れる症状をなかなか受け止められませんでした。そんな時に、自分の支えになったのが、聖書のお話であり、教会だったんです。

病気のことで悩んだ時に支えになったのが、倉持さんにとっては教会だったのですね。

そうなんです。当時は、「NF1を持っているから、周りに受け入れてもらえないのではないか」と考えたり、自分と他人を比較しては「自分は劣っている存在なんじゃないか」と考えたりして…。

だけど、そうではなくて、「あなたは愛されている存在だよ」という聖書のお話を聞くことで、自分を受け入れることができたんです。

そこから、どのようにご自身の職業として意識されるようになったのですか?

職業として意識するきっかけになったのは、中学・高校生の頃に、NF1に関わる手術と入院生活を経験したことだと思います。その時に出会った医師や看護師の方々に支えて頂いた経験が大きく影響し、自分も誰かの支えになる仕事に就きたいと思うようになりました。

初めての手術は、中学2年生の頃に受けました。顔の左側に生じている神経線維腫を減らすための手術です。元々、小学校高学年の頃から、医師に「体力がついてきたら、手術しましょう」と伺っていたので「いよいよか」といった印象でした。ただ、当時はまだ中学生でしたし、何よりも顔の手術ということで、怖さもあったんです。

入院中は、「どうして、自分だけこんなにつらい思いをしなきゃいけないんだろう」と思っては落ち込むなど、心の浮き沈みが激しい日々を過ごしました。そんな時に、病院の医師や看護師の方々の支えがあって、何とか頑張ることができたんです。だから今度は、自分が誰かの力になりたいと考えるようになりました。その時の経験が、今の職業につながっています。

職場に病気のことを伝え、円滑なコミュニケーションが可能に

現在のお勤め先には、どの段階で病気をお伝えしましたか?

今の教会で働き始める前に、教会の長老会という役員(管理職)の方々との顔合わせの機会があり、そこでお伝えしました。その時は、まだ潰瘍性大腸炎の診断を受ける前だったので、NF1のことのみ、話しました。

私の場合は顔に症状が現れているため、顔をあわせたタイミングでわかります。ですので、聞かれる前に自分から病気のことをお伝えしました。幸いにも、教会で働く方の中には医療関係者や福祉関係者もいるので、NF1のことはすんなり受け止めてもらった印象でした。

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働き始める前の顔合わせで、病気のことを伝えた倉持さん(写真はイメージ)

うれしかったのは、病気の話をした際に「特別なケアは必要ですか?」と聞いて頂いたことです。自分の場合は、特に日常生活に大きな支障は生じていなかったのですが、聞いて頂けたことで安心しました。

同僚の方に、ご自身の病気のことはお伝えされていますか?

今の教会では、もう一人の牧師と私の2人体制です。この牧師には、自分の病気については基本的に全部話していますし、病気に対して理解してくださっています。

7月に潰瘍性大腸炎の診断を受けた際にも、この牧師にはお伝えしました。例えば、大腸内視鏡検査を受ける場合は一日休まないといけないので、そういった事情もお伝えしています。「検査を優先してくださいね」と言ってくださる方なので、とても感謝しています。

また、私の場合、潰瘍性大腸炎は現在、炎症が抑えられている「寛解」の状態です。そのため、今のところ、仕事で何か特別なケアが必要というわけではありません。ただ、同僚の牧師からは、「体調に変化があったら、いつでも教えてください」と言って頂いています。そういった言葉も、本当にうれしいですね。「何か変化があったら、言っていいんだ」と思えるだけで、安心します。

「見える病気」と「見えない病気」、それぞれに悩み

働く中で、「仕事と病気の両立」が困難だと感じる瞬間はありますか?

私は、NF1を「見える病気」、潰瘍性大腸炎を「見えない病気」という位置付けで捉えています。まずNF1は、私の場合、顔に症状が現れているので「見える病気」と認識していますが、人によっては外見で症状がわかりにくい場合もあります。ですので、あくまでも私の場合ということで話しますね。

例えば、初めての方にお会いする時、私の顔を見て「どうしたの?」と聞かれることです。決して頻度は多くないのですが、自分でもいまだにどのように返答していいのかわからないことがあります。

そういう場面に遭遇した時は、どうやって気持ちの切り替えをされていますか?

今は、自分の中で解釈し直すことを心がけています。顔の症状について聞かれたとしても、「自分の病気のことを伝えるチャンスだ」と、捉え直すようにしています。私の場合、自分自身が他人からの言葉に敏感に反応しがち、ということもありますので。

あと、「心配している言葉」と「悪意のある心無い言葉」は冷静に見分けることも大切にしています。冷静になって振り返ってみると、悪意を持って言葉を投げかけてくる人は、そんなに多くないと思うんです。心配してかけてくれる言葉に対しては、先ほど述べた「自分の病気のことを伝えるチャンス」と、解釈し直すことができたらいいですよね。

続いて、潰瘍性大腸炎など「見えない病気」で困難に感じることはありますか?

外から見えない病気の場合、「こちらから伝えないと、理解してもらえないこと」が大変だと感じます。今のところ、潰瘍性大腸炎は寛解中なので大丈夫ですが、例えば、もし今度悪化してしまったら…と思うと、心配になります。

仮に、再燃して今より症状が重くなるなどしたら、今と同じように仕事できるかわからないですよね。だけど、そういった変化も、自分から伝えないと周りの方々には伝わらないです。NF1については「見える」ことで悩み続けてきましたが、潰瘍性大腸炎は「見えない」ことでの大変さを感じています。

「どんなケアが必要?」共有しやすい職場づくりを

難病の当事者が働く職場では、どのようなサポートがあると働きやすさにつながると思いますか?

当事者が「どんなケアを必要としているか?」を共有できる職場だと、安心できるのではないでしょうか。私自身、今の教会で働き始める前に、職場から聞いてもらえたことがとてもうれしかったです。

もっと言えば、当事者からどんなケアを必要しているかを発信できるような職場であってほしいですね。同じ病気であっても人それぞれ症状は異なりますし、その人によって求めているケアは異なります。何より、難病を持つ当事者は、「生きづらさ」を感じる機会も多いと思います。だから、その人自身が求めていることを共有できる職場づくりが大切だと思います。

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その人自身が求めていることを共有できる職場づくりが大切(写真はイメージ)

倉持さんは、どんな時に生きづらさを感じますか?

「病気に関わる弱点は、なかなか理解されにくい」と、思う時ですね。病気の有無に関わらず、誰しも何かしら弱点を持っていると思うのですが、病気に関わる弱点への理解は、よりハードルが高いように感じます。

特に、NF1や潰瘍性大腸炎は、前提として「病気自体が、よく知られていない」状況なので、まずは病気のことから知ってもらわないといけません。その過程で、正しく理解されず、誤った偏見にさらされる可能性もあります。だから、自身の病気を公表したくないという当事者の声も聞きます。

NF1や潰瘍性大腸炎といった難病のことを、もっと社会に正しく知って頂きたいですね。そして、少しずつ、当事者が生きづらさを感じにくい社会になったらうれしいです。

自分の「強み」を大切に、活躍してほしい

難病と仕事の両立に悩む、全ての方々へメッセージをお願いします。

「病気を理由に、自分の可能性に制限をかけないで欲しい」と、お伝えしたいです。もしかしたら、やりたい仕事があっても「病気だから難しい」と思うことがあるかもしれません。でも、ぜひ一歩を踏み出してもらえたらうれしいです。

私自身、子どもの頃からNF1による顔の症状に悩み、初めての人と会う時は今でも緊張することがあります。それでも、今の仕事が好きですし、これからも続けていきたいです。

病気の有無に関わらず、誰にでも弱みがあるように、誰にでも強みがあります。あなた自身の強みを大切にしながら、ぜひ社会で活躍して欲しいですし、私もそうでありたいと思います。


幼少の頃から、病気のことで悩みながらも、夢に向かって一歩ずつ前に進んできた倉持さん。社会人になり、新たな難病の診断に戸惑いつつも、前向きに日々の仕事に取り組まれています。

病気に関わる悩みを全てなくすことはできないかもしれませんし、それによって、働く上での苦労が無くなることもないのかもしれません。だけど、倉持さんのように強い想いを持って動き続けることで、道がひらける場合もあるのだと知って頂けたらうれしいです。(遺伝性疾患プラス編集部)

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