病気や障がいのあるお子さんの小学校入学に向けて、ご家族支援―みんなで就学活動

遺伝性疾患プラス編集部

病気や障がいのあるお子さんのご家族が経験する、小学校入学に向けた「就学活動」。自治体や学校とのコミュニケーションで苦労されるケースなど、ご家族側の負担が大きい現状があるとうかがいます。病気や障がいと向き合う日々の中で、当事者ご家族はどのようにして就学活動を進めていけば良いのでしょうか?

今回ご紹介するのは、NPO法人イシュープラスデザインの「みんなで就学活動」。ダウン症候群のご家族でもある高橋真(ちか)さんが立ち上げたプロジェクトです。ご自身も苦労された経験や多くの当事者ご家族へのインタビューを通じて、就学活動のさまざまな課題を知ったことから「みんなで就学活動」を立ち上げました。ご家族側が就学活動で経験する困りごとを事前に知り、その対処法を検討する機会を設けるワークショップの開催や、就学活動に関わるさまざまな情報発信を行っています。今回は高橋さんに、「みんなで就学活動」の活動やご自身の経験についてお話をうかがいました。

Shugaku Pro
みんなで就学活動 高橋真さん

困っている当事者ご家族へ広く届けたいという思いから、「みんなで就学活動」を立ち上げ

「みんなで就学活動」が始まったきっかけについて、教えてください。

私は2018年から2年間、大学院に通っていました。忙しい日々で大学院に通う時間はないと思っていたのですが、夫の働き方が変わったタイミングで、大学院で学び直す機会を得ることができたんです。その時の修士論文で、病気や障がいのあるお子さんの「就学活動」をテーマとして選んだことがきっかけでした。私の娘はダウン症候群の当事者で、難聴などの症状が現れています。大学院に通っていた頃、ちょうど娘の小学校入学の就学活動のタイミングと重なったこともあり、修士論文のテーマとして選びました。

私は、ダウン症候群の当事者・家族支援の団体『NPO法人アクセプションズ』の運営に関わっているため、さまざまな先輩ご家族の声をうかがってきました。よくうかがっていたのは、「小学校に入る時、本当に大変だった」という声です。就学先の選択、自治体・学校との調整など、ご家族側がやるべきことは多岐に渡ります。そこで、自分が実際に就学活動を経験するタイミングで、解決策を立てようと考えました。

修士論文をまとめる際に実際に作成したのが、以下の支援シートです。

  • ご家族が学校選択の話し合いをする際に利用する「意思決定支援シート」
  • 学校見学の際に利用する「学校比較シート」

当事者ご家族に実際に使っていただき、インタビューを通じて、役立った点や改善点を明らかにしていきました。

ただ、修士論文にまとめただけで活動は社会に広まっていきません。私は、就学活動への対応で困っている当事者ご家族へ、この活動広く届けたいと考えました。そこで、日本財団の助成を受けて、NPO法人イシュープラスデザインと立ち上げたのが、「みんなで就学活動」です。

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みんなで就学活動ウェブサイトより
病気や障がいのあるお子さんの就学活動で、ご家族はどういった課題を抱えることが多いですか

大きく「(1)自分の子どもにあっている就学先がわからない」と「(2)自治体や学校とのやりとりが上手くいかない」の2つの課題があると考えています。特に「(2)」は、ご家族にとって初めての就学活動であることが多く、どういった出来事が起こるかを想像できずに活動を開始するために生じます。そのために、自治体や学校とのやりとりが上手くいかず、疲弊するご家族が多くいらっしゃいます。

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みんなで就学活動ウェブサイトより
これらの課題を解決するために、「みんなで就学活動」ではどういった取り組みをされていますか?

「①自分の子どもにあっている就学先がわからない」課題に対しては、先ほどご紹介した「意思決定支援シート」と「学校比較シート」をご提供しています(※公式ウェブサイト内で、近日公開予定)。ご家族ごとにお子さんへの思いは異なりますし、お子さんの病気や障がいの種類によって求められる視点も変わってきます。ですので、これらのシートを使いながら、ぜひご家族ごとに対話の場を設けていただければと思います。

「②自治体や学校とのやりとりが上手くいかない」課題については、ワークショップを通じて実際の就学活動をシミュレーションしていただきます。ワークショップではまず、就学活動で必要となる具体的な行動を確認します。続いて、就学活動中に直面するであろう「困りごとや課題」を確認。最後に、「適切な対処策」を考えます。「困りごとや課題」は、私自身の経験に加えて、インタビューで把握したさまざまな当事者ご家族の経験をもとにまとめたものです。地域差はありますが、就学活動時、共通して皆さんがお困りになる内容はある程度決まってきます。ですので、そういった内容を事前に想定し、シミュレーションすることができます。

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みんなで就学活動ウェブサイトより

ワークショップは現在、動画コンテンツとして配信の準備を進めています。今後公開されれば、いつでも、どこでも、どなたでもワークショップの内容を体験することができるようになります。詳細は、公式ウェブサイトで発表しますので、ぜひご確認ください。

その他にも、就学活動に関わるお役立ち情報を発信しています。例えば、定期的にnoteで記事を更新しています。「先輩に聞く!私たちの”こうしよう術”」や「〇〇の専門家に聞く!就学活動のすすめ」といったテーマで、情報をお届けしています。オンラインで参加いただけるイベントも、定期的に開催していますよ。

「シューガクタウン」で、動物のキャラクターたちと一緒に楽しく学ぶ

就学活動のシミュレーションは、どのように学べますか?

架空の世界「シューガクタウン」で、動物のキャラクターたちと一緒に就学活動で必要となる具体的な行動を確認していきます。家族で相談する機会を設けたり、自治体の就学相談に参加したり、専門職の方々に協力をお願いしたり…といった、就学活動を進めていく上でのさまざまなステップをシミュレーションできます。

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みんなで就学活動YouTubeより

就学活動で実際に何が起こるかを確認し、また、その対処術を考えることで、実際の就学活動をご家族ごとにシミュレーションすること可能です。例えば、現実では少し大変な状況も、「シューガクタウン」ではかわいい動物のキャラクターたちが再現してくれるので、楽しく学ぶことができますよ。

みんなで就学活動YouTube

ワークショップに参加された方からは、どのような声が寄せられていますか?

「これまでよくわからなかった就学活動について、よくわかった!」という声が多いです。「就学活動に取り組む心構えができた」といった声もありますね。

また、同じように就学活動に取り組むご家族とのつながりができることを喜ばれている声もあります。就学活動に関わる困りごとは、残念ながら1人の力だけでは解決しないことが多いです。だから、みんなで知恵を出しあったり、苦しい時にフォローしあえたりできる仲間ができることは大切だと思います。

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ワークショップの様子

ご自身も苦労した就学活動、より多くの方々へ必要な情報を

高橋さんご自身の就学活動は、どうでしたか?

自分の場合は、上の子(兄)の小学校入学の時に下の子(妹)の就学活動が始まりました。当時、私の家はちょうど学区の境目にあり、同じ徒歩5分圏内に「学区内」と「学区外」の小学校があったんです。学区外の小学校には支援学級があった一方で、学区内の小学校は支援学級がありませんでした。私たち家族は、上の子と下の子が一緒に通えること希望していたため、学区外の小学校への入学を希望したんです。しかし、自治体や学校との調整は難航し、結果、私たち家族の希望は通りませんでした。この辺りの事情は、お住まいの地域ごとに対応が変わってくる部分だと思います。ただ、事前にある程度共通の課題・対処法を知っておくだけで、ご家族への負担のかかり方は大きく変わってくると感じています。こういった自身の経験もあり、「みんなで就学活動」を通じてより多くの方々へ必要な情報をお届けするべく活動をしています。

そして、私の就学活動には、続きがあります。その地域から引っ越すことを決断し、家族が希望する学習環境がある小学校へ入学することができました。というのも、当時住んでいた家の周辺が道路工事のために立ち退きの話が出たためです。このようにして解決するケースはまれですが、地域を変えることで解決する事例もあるということなんです。こうした背景もあり、私たちは現在、全国のさまざまな地域の中に入っていき、一緒に活動してくださる団体さんとのつながりを構築しています。

実際の就学活動は、決して簡単なものではないのですね。活動を始めるべき目安の時期はありますか?

ご家族によって事情はさまざまですし、ベストなタイミングは異なります。だから、気になったタイミングで始められるのが良いと思いますね。一つ目安を挙げるとすれば、「年中」の時期です。「年少」という専門家のお話もありますが、実際のご家族のご経験をうかがっていると、現実的なのは「年中」からの活動開始かなと感じています。

就学活動を始めると言っても、できることからで大丈夫です。「みんなで就学活動」を利用していただくことももちろんですし、保護者の集まりに参加して先輩のお母さん・お父さんのお話を聞いてみることも良いと思います。また、学校の雰囲気を確かめるために、地域に開放されている運動会や学芸会に参加することもおすすめですよ。コロナ禍になり、制限がかけられている学校もありますが、最近では制限が解除されている地域も見られるようになってきました。普段の学校行事で、支援を必要とするお子さんへ学校側がどのような対応をしているか、直接確認してみても良いと思います。

少しずつ情報が集まってきたら、ぜひ「意思決定支援シート」を利用してご家族で対話の時間を設けていただけたらうれしいですね。ご家族の中での「こうしたい」がはっきりすることで、就学活動も進めやすくなってくるのではないでしょうか。

一人で抱え込まずに、就学活動はみんなで

遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

病気や障がいのあるお子さんの就学活動を、1人だけで行うことはとても大変だと思います。だから、「一人ではなく、みんなでやろう」という思いを込めて「みんなで就学活動」と名付けました。私自身、娘の就学活動は本当に大変でしたし、お子さんがお持ちの症状や障がいによっては、各方面との調整でさらに苦労されるケースがあると思います。それでも、「子どものためだから」と言って、無理をしながら頑張っているご家族は多くいらっしゃいます。

だから、ぜひ周りの人や必要な支援を頼って欲しいです。例えば、「みんなで就学活動」の活動に参加してみたり、コンテンツを見て情報収集してみたりといったことからで大丈夫です。つらい時にご自身の気持ちを吐露できるお友だちをつくることでも、良いでしょう。

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「ぜひ周りの人や必要な支援を頼って欲しい」と、高橋さん

現実の就学活動では、大変なことが多いです。きっと、つらい思いをされる場面もあるでしょう。でも、ご家族が「お子さんのために」と考え、活動することは間違っていないと私は考えます。だから、一人で抱え込まずにどんどん皆さんの力を借りて、一緒に就学活動を乗り越えていけたらと思います。


病気や障がいのあるお子さんの就学活動を進めるにあたり、ご家族はさまざまな課題に直面します。高橋さんご自身もその課題と向き合った経験があるからこそ、「みんなで就学活動」では、ご家族が知るべき基本的な情報やノウハウなどをわかりやすく発信されています。

今後、ワークショップの動画コンテンツ化や各地域での活動も期待される「みんなで就学活動」。このプロジェクトが広まり、ご家族ごとにベストな就学活動を進められる環境が整うことを願っています。(遺伝性疾患プラス編集部)

関連リンク

NPO法人イシュープラスデザイン「みんなで就学活動」

NPO法人イシュープラスデザイン「みんなで就学活動」