“難しい”病気の情報とどう向き合う?当事者が病気を正しく学び・知るために

遺伝性疾患プラス編集部

ご自身の病気の情報を調べている際に、「これ、どういう意味だろう?」と感じたことはありませんか?また、「知りたい情報をうまく見つけられない」「正しい情報と誤った情報の判別が難しい」という経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

そこで今回の記事では、東京大学非常勤講師の水島-菅野純子先生(以下、水島先生)に、難しい病気の情報との向き合い方、ご自身の病気に関する知識を学ぶことの意味などについて、お話を伺いました。水島先生は、「ゲノム医学」がご専門で、一般の方向けの書籍『マンガでわかるゲノム医学 ゲノムって何?を知って健康と医療に役立てる!』(以下、マンガでわかるゲノム医学)」の著者です。その他、市民講座で数多くの講義を担当されるなど、一般の方向けに、生命科学や医療について関心をもっていただく取り組みを行っています。

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難しい病気の情報との向き合い方とは?(写真はイメージ)

「マンガでわかるゲノム医学」正しく・わかりやすく一般の方へ届けたい

水島先生は、これまでどのような研究を行われてきましたか?

私は、「どうして、一つの受精卵から人ができるのか?」ということに、非常に興味を持っています。そして、その謎を解くために、遺伝子からタンパク質が作られる過程の中の「転写」というステップの制御について研究をしていました。

長く研究を続けてきた中で、高速で多くの遺伝情報を調べられる「次世代シーケンサー」が登場しました。その頃からは、「どういう遺伝子の転写が変化することで病気が発症するのか?」をテーマとした研究を進めてきています。

一般の方向けの書籍「マンガでわかるゲノム医学」をつくられたきっかけについて、教えてください。

私は、もともと研究だけでなく「教育」の分野にも興味を持っていました。そして、日本の一般の方に対するゲノム医学の啓発には、課題があると感じていました。例えば、「ゲノム」「DNA」「染色体」といった言葉の意味の違いについて、難しいと感じている方々が多いのではないでしょうか。一方、メディア報道で、これらの言葉が誤って使われている場合があることを、しばしば目の当たりにしてきました。これまで専門家向けの論文や総説を多く書いてきた私は、今度は一般の方向けに正しい情報をお届けしたいと思ったのです。それが、この本を作ろうと考えたきっかけでした。

書籍で漫画を取り入れられたのは、なぜですか?

「正しさ」と同じくらい大切だと考えたのが、「わかりやすさ」です。そのため、漫画を取り入れることにしました。漫画は日本を代表する文化の一つですし、文章だけの本よりも多くの方々に興味を持っていただけるのではないかと考えました。また、一般の方はもちろん、専門家の先生方にも手に取っていただけるように、漫画と解説文をセットにして読み応えのある一冊を目指しました。

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書籍名:マンガでわかるゲノム医学 ゲノムって何?を知って健康と医療に役立てる!

著者/イラスト:水島-菅野純子先生/サキマイコ

発行年:2018年

発行所:(株)羊土社

「マンガでわかるゲノム医学」の読者からは、どのような声が届いていますか?

特に、「マンガも解説もとてもわかりやすい」という声が多く届いています。その他、「今後、自分たちがゲノム医療を受ける立場となったときに、自身の病気と治療を正しく理解する上で、この本は必ず役立つと感じた」といった感想も寄せられました。専門家の方たちからも、読み応えがあると、好評を頂いています。

当事者が病気を学ぶ意味、正しく知るためのコツとは?

疾患当事者やご家族が専門的な病気の知識を学ぶことは、なぜ大切なのでしょうか?

これは遺伝性疾患の当事者に限らず、全ての病気の当事者にとって大切なことかと思います。なぜなら、誤った情報からご自身を守るために、正しい知識が必要になるからです。例えば、皆さんが病気のことを調べようと思った時、ほとんどの方は、まずインターネットで検索されるのではないでしょうか?インターネットでは気軽にさまざまな情報を調べられる一方で、誤った情報も多くあります。SNSなどで、専門家を名乗る人が誤った情報を発信している場合もあります。ですから、誤った情報に惑わされないように、正しい知識を学び、身につけることが大切なのです。

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誤った情報からご自身を守るために、正しい知識が必要になる(写真はイメージ)

また、特に遺伝性疾患の場合には、ご自身に加えて親族にも関わる場合があるということも重要な点の一つです。こうした可能性があるため、どういった経過をたどるかなど、病気の内容についてはもちろん、常染色体優性(顕性)遺伝常染色体劣性(潜性)遺伝といった遺伝形式のことも正しく知る必要があります。

一方で、遺伝性疾患については「知らないでいる権利」があることも、大切なこととして知っておいていただければと思います。迷うことがあれば、ぜひ主治医の先生や認定遺伝カウンセラーに相談してみてください。

学校では学ぶ機会の少ない医療の知識について、大人はどのように学ぶのが良いでしょうか?

難しい問題ですね。わからないことは主治医の先生や医療従事者に質問するのが一番ですし、お金をかけずに気軽に調べられる手段はインターネットだと思います。

しかし、先程も言ったように、インターネットで情報収集をする際には、正しい情報と誤った情報を判断する知識が必要になります。インターネットで正しい情報にアクセスするためには、「公的機関が発信している情報」を見ることが大切です。具体的には、厚生労働省、大学病院などの医療施設、研究機関などの公的機関が一般の方向けにわかりやすく発信しているウェブサイトがおすすめです。海外の英語情報であれば、米国国立衛生研究所(NIH)なども一般の方向けに正しい情報をわかりやすく発信しています。また、信頼できる発信元による書籍を読んでみることももちろん重要です。

「正しい情報」を集めるためのポイントはありますか?

繰り返しになりますが、情報収集の際には、公的機関が発信する情報を積極的に収集しましょう。判断に迷うことは、主治医の先生や医療従事者に確認することが大切です。

公的機関以外でも、患者会のような支援団体の発信する情報も参考になると思います。同じ病気を持つ当事者の方の体験談など、なかなか公的機関が発信していないような情報も発信されています。団体によっては、病気と関連する学会や専門医の先生と連携されている場合もあるので、より正しい情報発信が期待できます。ぜひ、そういった視点でも確認してみてください。

複数の診療科に関わる病気の場合、「どの診療科の医師の情報を参考にするべきか迷う」と感じることもあると伺います。この場合は、どのようなことに気を付けたら良いでしょうか?

もし、その病気に関することを全般的に診ている専門医の先生がいらっしゃったら、その先生に確認するのが良いと思います。一方で、遺伝性疾患は希少疾患の場合が多いので、そういった先生を見つけることは難しいかもしれません。もし専門医の先生を見つけられない場合は、遺伝カウンセリングを受けることを検討しましょう。遺伝診療を行っている病院などで、受けることができます。

病気に関わる情報について、不安なこと、心配なことが出た時には、ご自分だけで判断されないことが大切です。必ず、主治医の先生や認定遺伝カウンセラーなど医療従事者に確認しましょう。

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主治医の先生や認定遺伝カウンセラーなど医療従事者に確認を(写真はイメージ)
希少疾患で日本語の情報が少ない場合、正しい情報を収集するコツはありますか?

できるだけ、主治医の先生から情報を得て、正しい知識を身につけることが、その病気について正しい情報を収集していくコツであり、とても大切なことだと思います。おそらく、多くの方は、インターネットで見つけた英語のページを、翻訳ツールなどを使って日本語に変換し、情報を集めておられるのだと思います。その際に、専門用語が正しく翻訳されず「この言葉、何だろう?」と思われた経験があるのではないでしょうか。正しい知識を身につけることで、こういった場面でもある程度の意味を予測できようになるのではないかと思います。

主治医の先生や、認定遺伝カウンセラーなどに確認を

遺伝形式を理解するのが難しいと感じる場合、理解するコツはありますか?

主治医の先生や認定遺伝カウンセラーに質問しましょう。例えば、ご自身が遺伝性疾患であるとわかった場合、「子どもに遺伝する可能性はどのくらいある?」といったことが気になると思います。これは、その遺伝性疾患の遺伝形式の種類によって異なります。ですので、正しい情報を得るためにも、専門家に確認しましょう。

医療従事者とコミュニケーションを円滑に進めるコツはありますか?

医療従事者の方のお話が難しいと感じたり、わからないことが出てきたりした場合には遠慮なく質問して問題ないと思います。もしかすると、「忙しい医療従事者の時間を取らせるは、申し訳ない」と思われる場合もあるかもしれません。ですが、ご自身の病気に関わることで知りたいと思うことは、迷わず聞いてみてください。

とはいえ、主治医の先生とお話できるのは、限られた診療時間のタイミングだけ…ということもありますよね。その場合、ご自身が聞きたいことを主治医の先生にうまく質問できないこともあるかもしれません。そういった時には、ぜひ認定遺伝カウンセラーに聞いてみましょう。遺伝性疾患について、正しくわかりやすく教えてくれますよ。

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ご自身の病気に関わることで知りたいと思うことは、迷わず聞いてみて(写真はイメージ)

治療研究の進歩も。希望を捨てずに情報と向き合って 

遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

病気になり、苦しんでおられる方もいらっしゃると思います。「どうして、自分が病気に…」と、思われることもあるかもしれません。でも、ご自身の病気について、ぜひ前向きに情報収集をしていただければと思います。正しい情報、誤った情報を含めてさまざまな情報が入ってくる時代です。ご自身がよりよく病気と付き合っていけるように、情報と向き合っていただければと思います。

医学の研究は、ここ数年で劇的に進んでいます。これまでは治療法がないと言われていた病気も、治療できるようになってきました。今も、研究者たちが病気の治療法を研究しています。ですので、決して希望捨てずに、情報と向き合っていただきたいと思います。


今回、水島先生にお話を伺い、「多くの情報を気軽に得られる時代だからこそ、情報源を正しく選択することが大切だ」と感じました。公的機関が発信する情報を確認し、判断に迷うことは主治医の先生や認定遺伝カウンセラーなど医療従事者に確認していくことが、正しい情報にアクセスし、理解するための一番の近道だと、改めてわかりました。私たち遺伝性疾患プラスも、引き続き、公的機関が発信する情報や、専門家の皆さまに取材させていただいた情報をもとに、正しく・わかりやすい情報をお届けしていきます。(遺伝性疾患プラス編集部)

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水島-菅野純子先生

水島-菅野純子先生

東京大学非常勤講師。1980年お茶の水女子大学卒業、1985年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。米ロックフェラー大学ポスドク、東京大学医科学研究所助手、北里大学准教授、工学院大学先進工学部生命化学科特任教授などを経て現職。専門はゲノム医学。