医療的ケア児とご家族が知っておくべき災害への備え、⽇本⼩児神経学会「子どものための福祉避難所」調査

遺伝性疾患プラス編集部

通い慣れた特別支援学校を「子どものための福祉避難所」に

⽇本⼩児神経学会の災害対策委員会では、「子どものための福祉避難所」開設について全国の特別支援学校に行ったアンケート調査結果を発表しました。

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⽇本⼩児神経学会ウェブサイトより

発達に障がいがあるお子さんは環境の変化に敏感なため、災害時には問題行動が目立ちやすくなります。また、医療的ケア児は、人工呼吸器や吸引器などの医療機器を用いるため、災害時も電源の確保が必要です。一方で、こうした背景から、障がいがあるお子さんとご家族は、災害時に避難をためらいがちになる状況があります。

福祉避難所とは、一般の避難所での生活が困難で配慮が必要な方々(例:高齢者、障がいがある方、乳幼児)が、災害発生時に避難できる場所のことです。⽇本⼩児神経学会は、障がいがあるお子さんとご家族が災害時に安全に安心して避難できるよう、通い慣れた特別支援学校を「子どものための福祉避難所」として活用することが望ましいと考えています。

全国の特別支援学校にアンケート調査、現状・教員の意向を把握

⽇本⼩児神経学会はこのような背景から、2022年夏、全国の特別支援学校にアンケート調査を実施。特別支援学校の現状と教員の意向を知ることを目的とし、1,200校のうち489校から得た回答結果を発表しました。

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全国の特別支援学校にアンケート調査を実施(写真はイメージ)

特別支援学校で「子どものための福祉避難所」は2.0%

調査の結果、特別支援学校158校(32.3%)が福祉避難所に指定されていました。そのうち、「子どものための福祉避難所」は10校(2.0%)だったそうです。受け入れ対象は、特別支援学校の在校生、卒業生、そのご家族、近隣住民でした。

6割以上「賛成」の一方、実現には課題が

調査の結果、「子どものための福祉避難所」としての活用に対して「賛成」は315校(64.4%)、「反対」は15校(3.1%)でした。

特別支援学校が子どもの福祉避難所に指定されることのメリットとしては、「避難者の安心感」が412校(84.3%)、「必要なケアの理解」が294校(60.1%)、「避難者と顔見知り」が212校(43.4%)でした。問題点としては、「マンパワーと医療的ケア」がそれぞれ340校(69.5%)、「発電設備」が300校(61.3%)と過半数に達し、他に「スペース」「救援物資の管理」「冷暖房」が多く挙げられたそうです。

避難の対象者については、270校(55.2%)が学校の種類別に、123校(25.2%)が種類別と関係ない受け入れを選択。また、237校(48.5%)は対象となるお子さんのご家族の受け入れを認めると回答したそうです。発達に障がいがあるお子さんの受け入れが困難な学校は2校、医療的ケア児の受け入れが困難な学校は37校でした。

特別支援学校への人材確保、備蓄等など支援が必要

調査の結果、約3割の特別支援学校が福祉避難所に指定されているものの、「子どものための福祉避難所」は非常に少ない状況が明らかになりました。令和4年度全国特別支援学校長会の調査(回答数1,052校)の結果、福祉避難所の指定は28.2%だったことからも、今回の調査結果は概ね偏りなく全体を反映していると考えられるそうです。

災害対策基本法に基づき内閣府が出している「福祉避難所の確保・運営ガイドライン(令和3年5月改訂)」では、特別支援学校を指定福祉避難所とする場合の長所として、「特別支援学校の在校生やその家族などにとって、慣れ親しんでいる場所に避難することで安心感がもてることが想定される。障害種別に応じてバリアフリー化されている施設が多い」ことが挙げられています。一方で、特別支援学校を福祉避難所とする際には、同ガイドラインの「対応の方向性」で触れられている「人材の確保や備蓄等について必要な支援を行うこと」などの対応が、今後求められそうです。今回の調査結果でも問題点として挙げられていることから、今後の対応が期待されます。

回答した特別支援学校の多くは、特別支援学校を「子どものための福祉避難所」とすることに前向きで、そのメリットとして「避難者の安心感」を最も多く挙げていました。今後は、子どものための福祉避難所の施設基準を作成して、問題点として挙げられていた建物の老朽化、自家発電、エアコン、物資の保管スペースなどに関して、予算をつけて改善を図っていくことが期待されます。医療的ケア児に関しては看護師の配置や病院との連携が必要であり、マンパワーに関しては各自治体からの応援人員の確保など事前に取り決めをしておくことが大切です。医療的ケア児で、急変しやすい場合などは病院に直接避難することも考えておく必要があります。また、個別避難計画を事前につくって、避難訓練をして何が必要か事前に調べておくことが大切です。

※要支援者一人ひとりについて、災害時に必要な支援内容を事前に記載したもの。詳細は、専門家インタビューの【特集・防災】をご覧ください。

⽇本⼩児神経学会に聞く、「子どものための福祉避難所」の広げる活動

ここからは、⽇本⼩児神経学会災害対策委員会委員長の木村重美先生にお伺いした内容をご紹介します。「災害時に備えた病院側との連携」「お子さんの福祉避難所を広げる活動」などについて、教えていただきました。

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(写真はイメージ)
当事者・家族がお住まいの地域の「福祉避難所」や「子どものための福祉避難所」を把握したい場合、どこに問い合わせるのが良いでしょうか?

「福祉避難所の確保・運営ガイドライン(令和3年5月改訂)」では、福祉避難所を公示するようにとしています。そのため、最近は、各自治体のホームページで福祉避難所の情報が公開されています。

また、医療的ケア児の災害時の個別避難計画について、各自治体での作成は努力義務となっていますが、患者さんご家族と各自治体が一緒に個別避難計画書をつくり、災害時にどこに避難するのかを前もって考えておくことはとても大切です。

日本小児神経学会ではこのたび、特別支援学校を子どものための福祉避難所にしてもらい、直接、特別支援学校に避難できるように、要望書を提出しました(防災の日である9月1日に要望書を手交)。しかし、自宅と特別支援学校の距離が遠いなど、問題点がまだ残されているのが現状です。

医療的ケア児の当事者・ご家族は、災害時に備えて病院側とどのように連携しておくと良いでしょうか?

まずは、主治医に相談しましょう。福祉避難所に避難して急変しやすいかどうかは、ご家族と主治医が一番把握されていると思います。もし必要がある場合は、主治医と相談して病院に直接避難するようにしてください。避難先の病院に関しても、相談に乗ってくれると思います。

日本小児神経学会のホームページの「災害関連情報」では、「災害時の人工呼吸器装着児のためのネットワーク」が紹介されています。同ネットワークは、災害時に在宅で人工呼吸器を使用しているお子さんたちが困らないようにすることを目的としたものです。人工呼吸器装着児を診ている在宅主治医、看護師などの医療関係者で形成されています。同ネットワークでは、「災害時、(人工呼吸器装着児は)病院に避難することが望ましい」としています(詳細は、資料「災害時小児呼吸器地域ネットワークの詳しい説明」をご覧ください)。小児神経学会災害対策委員会でも、急変が予想され、すぐに避難場所が確保できない人工呼吸器装着児は、直接病院に避難することを推奨しています。

また、同ネットワークでは地域ごとに代表者を設定し公表しています。災害時には、同ネットワークで収集した情報を代表者が災害時小児周産期リエゾンに提供し、協力して患者の避難・救助を支援します。災害時小児周産期リエゾンは、災害発生時に、都道府県の保健医療調整本部内で小児周産期領域の調整支援を行います。その地域で、支援が必要な小児・妊産婦の情報を収集し、災害派遣医療チーム(DMAT)などの関連各部署と連携して、患者さんの搬送など、適切にコーディネートをして支援をつなげていきます。参考までに、このような仕組みを知っておくと良いでしょう。

特別支援学校を障がいがあるお子さんの福祉避難所に指定する動きを広めるため、今後、学会として何か働きかける予定はありますか?

2024年の第66回日本小児神経学会学術集会では、災害対策委員会主催セミナー「障がいのある子ども達の災害時の避難所を考えよう」を開催します。また、要望が通るまで、内閣府やこども家庭庁に繰り返し要望書を提出していきます。

最後に、遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

人工呼吸器装着児などの医療的ケア児や障がいがあるお子さんは、前もって避難する場所を決めて、その環境を整える必要があります。そのために、行政、医療関係者、避難所運営者など、みんなで協力して障がいがあるお子さんたちを守るシステムを構築していきましょう。


⽇本⼩児神経学会が要望を提出するなど、特別支援学校を「子どものための福祉避難所」として活用する動きが始まっています。災害時、障がいがあるお子さんとご家族が安全に安心して避難できるように、少しずつ対応が進んでいくことが期待されます。

今回発表された、⽇本⼩児神経学会の調査結果でも、特別支援学校の「子どものための福祉避難所」としての活用に対して「賛成」が6割以上でした。一方で、実現に向けてさまざまな課題があることも明らかになりました。課題解決に向けて、今後、自治体ごとに環境整備に向けた動きが進むことが望まれます。

最後に、災害はいつ起こるかわかりません。木村先生のお話にもあった、「災害時の個別避難計画の作成」「災害時に備えた病院側との連携」など、今から準備できることを少しずつはじめていきましょう。(遺伝性疾患プラス編集部)

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