医療的ケア児のご家族は、日々さまざまなお悩みと向き合っています。そんな中、「同じご家族や支援者と、気軽に悩みを共有できたらいいのに…」と感じた経験はありませんか?お住まいの地域によっては、そもそもつながることが難しい場合も。また、対面での集まりがあったとしても、「家からの移動が負担で参加できない」などと感じているご家族もいらっしゃるかもしれません。
そこで一般社団法人スペサポは2023年12月、医療的ケア児のご家族が、ご家族・支援者と気軽につながり情報交換できる場の1つとして、無料のオンラインコミュニティサイト「医ケアkidsルーム」をオープンしました。いつでもどこでも、ご家族の隙間時間を活用してスマートフォンなどから気軽に参加することができます。
スペサポ代表理事の鈴木啓吾さんは、ご自身もまた医療的ケア児のご家族です。これまで、『医療的ケアが必要なお子さんとご家族のための支援ガイドブック(札幌市版)』、ポータルサイト「医ケアkidsナビ」など、さまざまな情報提供を行ってきました。今回新たにリリースされた「医ケアkidsルーム」とは、具体的にどのようなサービスなのでしょうか?詳しくお話を伺いました。
先輩ご家族だけでなく支援者ともつながれる、登録無料コミュニティ
コミュニティサイト「医ケアkidsルーム」は、どのようなサービスですか?
医療的ケア児のご家族や支援者がオンラインでつながることができる、登録無料のコミュニティサイトです。例えば、ご家族が「知りたいこと」「悩んでいること」を投稿すると、先輩家族や支援者が対処法を回答したり、共感したり、といった形で相互にコミュニケーションをとることができます。投稿してコミュニケーションをとる際には、無料のユーザー登録をお願いしています。登録は匿名のため、気軽に参加いただけます。投稿内容は、質問・相談以外にも「今日こんなことがあって…」といった日常のつぶやきなど、自由です。コミュニティサイトなので、SNSのような感覚で気軽に交流いただけます。
なお、「医ケアkidsルーム」での投稿内容は、ユーザー登録不要でどなたでも閲覧可能です。どなたでも閲覧できるようにしている理由は、医療的ケア児のご家族がどういった悩みと向き合っているかを広く知っていただくためです。これは、支援者側にとっても医療的ケア児に関わる知識やノウハウの蓄積につながります。多くの人に知っていただくことで、結果的に、ご家族が必要としている支援につなげたいと考えています。
「医ケアkidsルーム」に参加する支援者は、主にどのような職種の方々ですか?
医師、看護師、理学療法士、ソーシャルワーカー、相談支援専門員、介護福祉士、保健師、保育士、教員、行政機関の職員などです。日頃から医療的ケア児に関わる方々を想定しています。
初めて長期入院から在宅へ移行する医療的ケア児のご家族は、医療や福祉の支援制度について詳しく知らない場合がほとんどで、次から次へとわからないことが出てきます。しかし、現状では「何をどこへ聞いたら良いか?」がわかりにくく、必要な支援につながりにくい状況があります。そんな時に頼りになるのが、同じ経験をしている先輩ご家族、そして、支援経験の豊富な支援者です。「医ケアkidsルーム」では、先輩ご家族だけでなく支援者ともつながることができます。
当事者ご家族向けに、「医ケアkidsルーム」の特徴を教えてください。
先ほどから述べている話と重複しますが「身近では知り合えない先輩家族や経験豊富な支援者」とつながることができる点が最大の特徴です。例えば、同じ疾患や医療的ケアと向き合っているご家族とつながりたいと考えた時、地域によっては難しい場合もあります。どの地域にも、家族会や患者団体があるとは限りません。同じ疾患を持っていて同年代の子どもと友だちになろうと思うとさらに難しいです。一方、「医ケアkidsルーム」はオンラインのコミュニティサイトなので、全国どこでも、海外にお住まいの方でも参加可能です。そのため、お住まいの地域に関わらず、ご家族や支援者とつながり情報を得ることができます。オンラインコミュニティという特性を生かし、SNSのような感覚で気軽にコミュニケーションを取っていただきたいです。
不安な気持ちを1人で抱え込んでしまう前に、ぜひ、他のご家族や支援者とつながってみてください。まずは、日常のささいなつぶやきからで大丈夫です。いつでもどこでも、安心して話を聞いてもらえる場があることで、気持ちが後ろ向きになることを防ぐきっかけになるのではないかと考えています。
ポータルサイト「医ケアkidsナビ」との連携で、さらに使いやすく
2022年12月にオープンしたポータルサイト「医ケアkidsナビ」とは、どのように連携していますか?
「医ケアkidsナビ」は、医療的ケア児との暮らしに役立つ情報をワンストップで紹介するポータルサイトです。一方で、「医ケアkidsルーム」は医療的ケア児のご家族や支援者とつながり双方向に情報交換できるコミュニティサイトです。使い方の例としては、何かわからないことが出てきた際に、まず「医ケアkidsナビ」で情報を探します。さらに「もう少し、個別の内容も含めて詳しい情報を知りたい」と思った時は、「医ケアkidsルーム」に、相談を投稿します。すると、ご家族や支援者が反応してくれるので、さらにご自身が欲しかった情報を得られるイメージです。「医ケアkidsルーム」でのコミュニケーションがきっかけで蓄積された情報は、今後、「医ケアkidsナビ」でも確認できるようにしていきます。具体的には、サイト内の「みんなの疑問・困りごと」で、情報を確認できるようにする予定です。
このように、「医ケアkidsナビ」と「医ケアkidsルーム」で連携しながら、多くのご家族が抱える悩みへの対処法をどなたでも閲覧できるようにしていきます。
ご家族の悩みに個別対応・孤立の回避を目指す
「医ケアkidsルーム」立ち上げのきっかけについて、教えてください。
私自身、医療的ケア児の親として、自ら必要な情報を探し回ったり、人に聞いて回ったりする中で、「必要な時に必要な情報を得られたら良いのに」と思ったことがきっかけです。
スペサポは、2021年9月、医療的ケア児とご家族の暮らしを少しでも豊かにするツールやサービスの企画開発をミッションとして設立しました。
最初の取り組みは、地域版支援ガイドブックの制作と配布です。2021年11月に、札幌市を拠点とする医療法人稲生会、札幌市障がい保健福祉部、札幌市の医療的ケア児家族会「にじのかけ橋」と連携し『医療的ケアが必要なお子さんとご家族のための支援ガイドブック(札幌市版)』を発行しました(累計発行部数5,000部)。札幌市近郊の医療・福祉施設などを中心に、無料でお届けしています。次に、全国版ポータルサイト『医ケアkidsナビ』を2022年12月に、リリースしました。
このように、医療的ケア児に関わる情報不足を解決するための手段として、支援ガイドブックや医ケアkidsナビを提案してきた一方で、悩みへの個別対応には限界を感じていました。というのも、医療的ケア児といっても医療的ケアや疾患の種類はさまざまですし、ご家族の悩みも多岐にわたります。そこで、悩む家族や支援者とそれに対してアドバイスや共感ができる家族や支援者のマッチングを実現できる場としてリリースしたのが、今回の「医ケアkidsルーム」です。
また、「医ケアkidsルーム」はご家族の社会的な孤立回避にも役立ててほしいとも考えています。医療的ケア児のご家族は、365日24時間子どもの見守りをしていなければいけない・携行する医療機器や医療材料が多いため外出が困難というケースが多いです。そのため、特に仕事をしていない主たる育児者は、家の中で過ごす時間がほとんどで、コミュニケーションをとるのはご家族や身近な支援者といった特定の方々に限定され、社会との接点が減りがちです。そうした状況下、「自分は1人なのではないか…」と孤立を感じることがあるかもしれません。実際は、同じように医療的ケア児の育児を頑張っている仲間が全国にいます。オンラインでご家族や支援者とつながることが孤立回避の一助になればと考えています。
支援者も利用対象として想定されているのは、どのようなきっかけからですか?
支援ガイドブック紹介のため複数の病院に足を運び、医療的ケア児支援に携わる医師・看護師・ソーシャルワーカーなどに医療従事者側の悩みをヒアリングさせていただきました。その中で特に多かったのは、「支援したい思いはあるが、そのために必要な知識や経験が足りないと感じている」「支援経験が豊富な人材が少ない」という声です。支援者側がリアルなご家族の声を知ることができる場が増えれば、支援者側の知識・経験の獲得と、それによる支援の質向上につながっていくのではないかと考えました。
そうした生の声をより広く確認しようと考え、2022年に、医療や福祉に関わる支援者約90人を対象として「医療的ケア児への支援」をテーマにアンケート調査を実施しました。アンケートの中で「ご家族や支援者が集う掲示板サイトを利用したいですか?」と質問したところ、支援者の97.7%が「はい」と回答しました。
病院でのヒアリングとアンケート調査の結果は、ご家族だけでなく支援者にとってもコミュニティサイトのニーズが高いことを示しており、今回の「医ケアkidsルーム」を立ち上げる根拠となりました。
医療的ケア児のご家族・支援者、社会に広く情報を届ける活動へ
現在の活動内容について、教えてください。
現在、大きく4つの活動に取り組んでいます。1つ目は、医療的ケア児のご家族支援を啓発する活動です。自身の講演活動や、学会へのブース出展などを行っています。2つ目は、『医療的ケアが必要なお子さんとご家族のための支援ガイドブック(札幌市版)』の全国展開です。地域の必要な支援情報が網羅されている紙のガイドブックについて、「自分たちが暮らす地域でも、つくりたい」というお声をいただくことがあります。その思いを後押しできるよう、ご希望の地域へ無償でガイドブックの原案を提供する活動を行っています。ガイドブックを1から全て制作する場合、コストも時間もかかります。札幌市版ガイドブックのデザインデータなどを無償で提供することで、従来よりも制作の負担を抑えることができます。3つ目がポータルサイト「医ケアkidsナビ」の運営、4つ目が今回オープンしたコミュニティサイト「医ケアkidsルーム」の運営です。
今後、新しい活動を行う予定はありますか?
医療的ケア児と直接関わりのない一般の方向けに、アニメーション動画を制作しています。これまでは、ご家族や支援者向けの活動が中心でしたが、ご家族が暮らしやすい社会にしていくためには、直接関わりのない人たちにも知っていただくことが必要だと考えています。例えば、医療的ケア児とご家族が気軽にお出かけできる場所は、現状ほとんどありません。他の事例で考えてみると、車いす利用者が快適に過ごすための工夫は、社会の中で少しずつ増えてきています。これは、以前と比べて車いす利用者への理解が進んでいることが理由の1つだと思います。同じように、医療的ケア児についても社会に知っていただく活動が必要だと考えています。
具体例として例えば、経管栄養の医療的ケアが必要なお子さんがご家族でレストランを訪れた場合を考えてみましょう。経管栄養では食事をペースト状にする必要があるのですが、ペースト食に対応しているレストランは非常に限られています。電車やバスなど公共交通機関に乗ることを考えてみましょう。医療的ケア児の多くはバギーという小児用車いすを利用しています。体が不自由な子どもの身体を支えたり、医療機器を載せたりするためのバギーは重量が重く、折り畳むことができません。バギーを知らない一般の方からはベビーカーのように見えるため「なぜおろしてたたまないの?」と厳しい目で見られることがあります。こうした事例は、社会に医療的ケア児のことを知っていただくことで改善していけるのではないかと考えています。
アニメーション動画は、2024年春頃のリリースを目標に制作しています。医療的ケア児とご家族が暮らしやすい社会を実現するために、多くの方々に知っていただくきっかけになればと考えています。
遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。
もし、医療的ケア児のご家族でお困りのことがある場合には、ぜひ私たちの活動を利用していただければと思います。お困りごとの解決に向けて、少しでも役立てることがあればうれしいですね。また、私たちの活動に興味を持っていただき、「一緒に参加したい」と思ってくださった方は、お気軽に問い合わせフォームよりご連絡ください。
医療的ケア児とご家族の暮らしをより良いものにしていくため、着実に活動を積み重ねてきたスペサポ。これまでは、主に「医療的ケア児のご家族へ必要な情報を届けること」が中心でしたが、今回はご家族に加えて支援者も対象に、情報を届ける場が生まれました。そして今後、社会に広く医療的ケア児を知っていただくための活動も始まります。支援者や社会にも正しく情報が届くことで、ご家族の生活のしやすさへつながっていくことが期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)