どのような病気?
4p欠失症候群は、4番染色体の一部が欠失(一部の遺伝子とともに消失)することによって、特徴的な顔立ち、成長障害、精神運動発達遅滞などを生じる遺伝性疾患です。
4p欠失症候群の人の多くは、広くて平らな鼻筋や突き出た額などの特徴的な顔立ちをしています。左右の目の間隔は広く、眼球が飛び出ている場合もあります。鼻と上唇の間の長さ(人中)が短く、口は下を向き顎が小さく、穴が小さく皮膚の突起が付いているような耳の形状をしていることもあります。さらに、非対称な顔の特徴や、小頭症と呼ばれる、脳の発達が不完全で小さいために頭の大きさが小さくなる症状が見られる場合もあります。
また、4p欠失症候群では、ほとんどの場合で成長や発達に遅れが見られます。ゆっくりとした成長は胎児の頃から始まり、生後もなかなか体重が増加せず、哺乳量や離乳食の進みなどにも問題が生じる傾向があります。赤ちゃんの時には、筋緊張低下と呼ばれる、筋肉の張りが弱くなる症状や、筋肉の発達が遅いという症状もみられ、座る、立つ、歩くなどの運動発達が大幅に遅れる傾向があります。その他の身体的特徴として、大人も子供も低身長であることが多いとされています。
4p欠失症候群の人には、軽度から重度の精神発達遅滞(知的障害)が見られ、他の知的障害を持つ人と比べると、社会性スキルは高いものの、言葉によるコミュニケーションや言語能力は弱いという傾向があります。そして、この病気をもつ子どもは、けいれんなどのてんかん発作が見られる場合が多く、治療が難しい(難治性てんかん)場合がありますが、てんかん発作は年齢とともに少なくなる傾向にあるとされます。
その他の症状としては、難聴、眼瞼下垂(まぶたが垂れ下がる)、視神経異常、歯牙異常、先天性心疾患、口唇裂(上の唇に裂け目がある)、口蓋裂(上あごに裂け目がある)、性腺障害、腎尿路障害、脳形態異常などがあります。顔立ちの特徴、胎児期からの発育遅延、筋緊張低下、精神運動発達遅滞、知的障害は、ほとんど全員にみられます。また、それぞれの人の健康状態は合併症の種類と重症度によって異なります。予後に影響の大きい合併症としては難治性てんかんや心疾患があります。
4p欠失症候群で見られる症状 |
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高頻度に見られる症状 長頭症、小頭症、前頭隆起、毛髪線高位(毛髪が生えている位置が高い)、突き出た額、後頭部毛髪線低位、強くカーブした眉(三日月眉)、内眼角贅皮(目頭部分を覆う上まぶた)、両眼の隔離(瞳孔間距離が広い)、眼瞼裂斜下(目尻が標準よりも下がっている)、低い位置で後方に傾いた耳、小耳症、広い鼻底、人中(鼻と口の間の細長い溝)の形態異常、短い人中、唇の形態異常、口の形態異常、口角下垂、歯数不足、小顎症、尿道下裂(尿道口の位置異常)、筋緊張低下、運動失調症、(胎児期の)子宮内発育遅延、(胎児期の)胎動減弱、成長障害、精神運動発達遅延、重度の知的障害、てんかん発作(けいれんなど) |
良く見られる症状 頭蓋骨欠損、頭皮無形成、眼瞼下垂、虹彩欠損、口唇裂、短い手の親指、軸前性多指症(親指の重複)、解離性小手筋萎縮、クモ指症(指が異常に長くて細い)、仙骨部皮膚陥凹(仙骨部の皮膚のくぼみ)、停留精巣、足の形態異常、短い足の親指、内反尖足(足の底が内側を向く状態)、肋骨の癒合、脊髄癒合不全、椎体骨形態異常、脊椎形態異常、脊椎側弯症、脊柱後湾症、胸郭の形態異常、脊柱異常、骨格発育遅延、血管腫、肺の形成不全、先天性横隔膜ヘルニア、心血管系形態異常、心中隔形態異常、心臓弁膜症、心房中隔欠損、腎奇形、視神経委縮、聴覚障害 |
しばしば見られる症状 眼球突出、眼球振とう、網膜症、巨大角膜、角膜硬化、斜視、口蓋裂、乳頭形成不全、性器異常、不均衡な体型(腕と足が異常に長く痩せている)、小脳形成不全、慢性中耳炎、胆嚢異常、内臓逆位症、尿路障害、脳梁欠損、ヘルニア、骨粗鬆症、呼吸器感染症にかかりやすい、運動障害、免疫機能異常 |
4p欠失症候群の有病率はおよそ5万人に1人で、男女比は1:2で女性が多いとされていますが、その理由はわかっていません。日本の患者数は1,000人以下とされています。しかし、症状が軽度の患者さんはこの病気であると診断されず見逃れている可能性があり、実際の患者さんの数はもっと多い可能性があります。
4p欠失症候群は指定難病(指定難病198)および小児慢性特定疾病となっています。
何の遺伝子が原因となるの?
4p欠失症候群では4番染色体の短腕(染色体の短い方の腕)の末端付近の4p16.3領域に欠失があり、欠失した部分に存在する遺伝子の機能が失われることがこの病気の原因と考えられています。
ヒトの遺伝子は2コピーずつあり、多くの遺伝子は一方に異常があっても、1コピーの正常な遺伝子のみで十分に機能します。しかし、中には欠失や変異などによって正常な遺伝子が1つとなった場合に機能が十分保てない遺伝子もあり、それをハプロ不全と言います。4p欠失症候群の場合は、この欠失した染色体部分に含まれる遺伝子のハプロ不全により、それぞれの症状が引き起こされると考えられます。欠失する大きさは患者さんそれぞれによって違いがあり、大きな欠失がある方が小さな欠失よりも重度の知的障害や身体的異常を引き起こす傾向があるとされます。
4p欠失症候群の人が持つ特徴や症状は、この4番染色体の欠失した部分にある複数の遺伝子が持つ機能に関連しています。NSD2遺伝子、LETM1遺伝子、MSX1遺伝子は、この病気の典型的な症状を持つ人の多くで欠失しているとされます。これらの遺伝子の機能の詳細はあまり分かっていないものの、初期の発達において重要な役割を果たしていると考えられています。例えば、NSD2遺伝子の欠失は特徴的な顔立ちや発達の遅れなどこの病気で見られる多くの特徴と、LETM1遺伝子の欠失はてんかんや、他の脳内の電気信号異常と、MSX1遺伝子の欠失は歯の異常や口唇裂、口蓋裂と、それぞれ関連している可能性があると考えられています。
4p欠失症候群は約8割以上が孤発例であり、子どもが生まれてくる過程で起きた欠失、あるいは環状4番染色体などのまれな染色体異常が原因で発症するとされます。病気を引き起こすこれらの変化は、家族に遺伝性疾患の病歴や遺伝的な原因がない場合でも起こり得ます。そのため、第1子が4p欠失症候群である場合に、第2子が4p欠失症候群となることはまれです。
一方で、遺伝によって4番染色体の欠失を引き継ぐことでこの病気を発症する場合もあります。その1つのパターンとして、親の染色体が持つ均衡型転座が原因となることがあります。「転座」とは、異なる2本の染色体の一部が切断され、切断された断片が入れ替わって他方の染色体に結合することをいいます。しかし染色体の一部が入れ替わっても、すべての遺伝子が揃っている場合、その人には病気の症状が現れないことがあり、これを均衡型転座と呼びます。この均衡型転座を持つ人の子どもには遺伝情報の過不足が生じる場合があり(不均衡型転座)、不足した遺伝子領域が4p欠失症候群を発症する領域と一致した場合に、この病気を発症する原因となることがあります。
どのように診断されるの?
4p欠失症候群の診断基準によると、乳幼児期からの1)精神発達の遅れ、2)(てんかん症状による)けいれん発作、3)鼻の特徴(ギリシャ兵のヘルメット様とも呼ばれる前頭部から続く幅広い鼻)の3つの特徴や症状があり、遺伝学的診断(染色体検査)によって第4番染色体の4p16.3領域の欠失が確認された場合に4p欠失症候群と診断されます。
どのような治療が行われるの?
4p欠失症候群に対する根本的な治療法は今のところまだありません。そのため、それぞれの症状に応じた対症療法が行われます。
発達の遅れに対しては、理学療法、作業療法、言語療法、摂食指導など、療育的な支援が行われます。先天性心疾患に対しては必要な場合には手術が行われるほか、抗てんかん薬、経管栄養、眼科・耳鼻科・循環器科・整形外科検診など起きやすい症状に対する早期の検診と症状に応じた適切な治療が行われます。
心疾患や、難治性てんかんがある場合には、日常生活での配慮や確実な投薬が必要な場合があります。また、感染症にかかりやすい場合は、予防接種や症状が重くなる前に受診することなどが必要なこともあります。発達面では、病院での療育的支援に加えて療育施設へ通園することで、楽しい刺激を受けたり社会性を身に付けたりすることにもつながります。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本で4p欠失症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。