どのような病気?
軟骨無形成症は、軟骨の形成が行われないことによって、軟骨から骨が作られる仕組み(軟骨内骨化)に異常が生じ、全身の骨に症状が見られる遺伝性疾患です。以前は「軟骨異栄養症」と呼ばれていました。手足の長さが短いことによる低身長、特徴的な顔立ち、成長障害などが主な症状となります。
この病気は、早い場合には胎児の時期に超音波検査で骨が短いことを指摘されます。生まれてすぐに、特徴的な顔立ちや短い手足・指などから気づかれることもあります。
生まれた時点では、手足の長さが短いものの、身長はそれほど小さくありません。その後、成長するにつれて低身長が次第に目立つようになります。成長期の身長の伸びは小さく、成人期の身長の平均は男性で約130cm、女性で約125cmです。
顔立ちの特徴は、生まれた時から見られ、額が前面に突出(前頭隆起)している、頭部の肥大(大頭症)、顔面中部の低形成などが見られます。歯並びが悪く、咬合不整なども見られることがあります。体形の特徴は、体幹(頭と手足以外の胴体部分)は平均的な長さで腕と脚だけが短く、特に肘から上の上腕と、膝から上の太ももの長さが短くなります。小児期から、腰の前湾や内反膝(O脚)のほか、背骨の異常な前後の湾曲(脊柱後湾)による背中の痛みなどを発症する場合もあります。
また、この病気では、成長とともに背骨の神経が通る空間である脊柱管が狭くなる脊柱管狭窄を発症することが多く、それによって、しびれ、脱力、腰痛、間欠性跛行(歩行時に足が痛み歩き続けることが困難となる)、足のまひ(下肢麻痺)が起こるほか、神経の障害を原因とする膀胱や尿道の機能低下(神経因性膀胱、しんけいいんせいぼうこう)による排尿障害などが見られることがあります。
それ以外の症状や特徴として、肘の関節の動かせる範囲(可動域)が制限される、指が短い(短指症)、指を伸ばすと中指と薬指の間が離れ放射状になる(三叉手)なども見られます。胸の骨格(胸郭)の低形成によって拘束性肺疾患や呼吸器感染症を繰り返す、中耳炎になりやすい(多くの場合で慢性中耳炎となり、30~40%で伝音性難聴となる)などの場合もあります。また、乳児期から首のすわり、おすわり、歩行などの運動発達に遅れが見られ、歩行障害は年齢とともに増加します。一方で多くの場合、知能の発達は正常です。診断の遅れなどが原因で、無呼吸や突然死につながることもありますが、通常はこの病気における平均寿命はほぼ正常です。
幼児期(3歳頃まで)において、重篤な合併症につながる可能性があるのは、頭蓋骨の後頭部にある大孔と呼ばれる穴が狭くなること(大孔狭窄)で、これにより、脳から出て脊髄につながる部分(脳幹、延髄、上位頸髄など)が圧迫され、首が曲がりにくい(頸部の屈曲制限)、手足のまひ(四肢麻痺)、全身が後ろに弓形にそりかえる状態(後弓反張)、足の関節が意思とは関係なくカクカクと動いてしまう(下肢のクローヌス)などのほか、睡眠中の呼吸停止(睡眠時無呼吸)や水頭症などにつながる可能性があります。水頭症は2歳までに生じる可能性が高く、脳に体液が蓄積してしまうことで、頭のサイズが大きくなるだけではなく脳の異常を引き起こすことがあります。
軟骨無形成症で見られる症状 |
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高頻度に見られる症状 不釣り合いな低身長、脊柱後弯症、胸部と腰部の後弯症、四肢短縮、内反膝 |
良く見られる症状 大頭症、前頭隆起、顔面中部の形態異常、低い鼻梁(びりょう、鼻筋のこと)、短い鼻梁、上向きの鼻孔、長骨の短縮、肘の伸展制限、三叉手、短指症、指の中節骨(ちゅうせつこつ、親指以外の指にある真ん中の骨)の短縮、指の基節骨(きせつこつ、指の根元側の骨)の短縮、脊柱管狭窄症、腰椎前弯症、膝の過剰可動性、股関節の過剰可動性、乳児の筋緊張低下、中耳の機能異常、聴覚障害、中枢型の睡眠時無呼吸症候群、閉塞型の睡眠時無呼吸症候群 |
しばしば見られる症状 胸部の形成不全、近位肢節短縮、腸骨翼の形態異常、平坦な臼蓋(きゅうがい、骨盤のくぼみ)、大坐骨切痕が狭い、黒色表皮腫、低酸素血症、肥満、大泉門の拡大 |
まれに見られる症状 水頭症 |
軟骨無形成症の発症頻度は、出生およそ2万人に1人と推定され、日本における患者数は6,000人程度と考えられています。
何の遺伝子が原因となるの?
軟骨無形成症は、4番染色体の4p16.3にあるFGFR3遺伝子の変異によって引き起こされます。FGFR3遺伝子は、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)3と呼ばれるタンパク質の設計図となります。FGFR3タンパク質は、細胞膜に存在し、細胞外から来たFGFというタンパク質と結合して細胞の中に情報を伝えます。その情報伝達は、軟骨細胞の分化や増殖を抑制する作用があります。
軟骨無形成症の患者さんの95%は、FGFR3遺伝子の特定の箇所に2種類の変異が起こることが原因となります。この2つの変異はどちらもFGFR3タンパク質の380番目のグリシンがアルギニンに変わってしまう変異(G380R点変異)となります。この変異によって、FGFR3タンパク質が過剰に活性化され、軟骨細胞の分化や増殖が抑制され過ぎることによって骨格の正常な発達が妨げられることがこの病気の症状を引き起こすと考えられます。しかし、このFGFR3遺伝子変異と症状との詳細な関連は完全にはわかっていません。
軟骨無形成症では多くの場合、両親はこの病気ではなく新たに生じた変異による孤発例です。親がこの病気である場合には、この病気は常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝します。この遺伝形式では、50%の確率で子どもにこの病気が受け継がれます。
どのように診断されるの?
軟骨無形成症は、以下の診断基準によって診断されます。
A:主な症状として以下の3つの症状が見られること
1)近位肢節により強い四肢短縮型の著しい低身長(-3SD以下の低身長、指極/身長<0.96の四肢短縮)
2)特徴的な顔立ち(頭蓋が相対的に大きい、前額部の突出、鼻根部の陥凹、顔面正中部の低形成、下顎が相対的に突出、頭囲が+1SDより大きい)
3)三尖手(手指を広げた時に中指と環指の間が広がる指)
B:X線検査により、以下5つの特徴が見られること
1)四肢(正面):管状骨は太く短い、長管骨の骨幹端は幅が広く不整で盃状変形(カッピング)、大腿骨頸部の短縮、大腿骨近位部の帯状透亮像、大腿骨遠位骨端は特徴的な逆V字型、腓骨が脛骨より長い(腓骨長/脛骨長>1.1、骨化が進行していないため乳幼児期には判定困難)
2)脊椎(正面、側面):腰椎椎弓根間距離の狭小化(椎弓根間距離L4/L1<1.0)(乳児期には目立たない)、腰椎椎体後方の陥凹。
3)骨盤(正面):坐骨切痕の狭小化、腸骨翼は低形成で方形あるいは円形、臼蓋は水平、小骨盤腔はシャンパングラス様。
4)頭部(正面、側面):頭蓋底の短縮、顔面骨低形成。
5)手(正面):三尖手、管状骨は太く短い。
C:他の骨系統疾患(軟骨低形成症、変容性骨異形成症、偽性軟骨無形成症など)ではないと診断される(鑑別診断)こと
上記A~Cの全てを満たした場合に、軟骨無形成症と診断されます。
また、A:主な症状のうち2項目、B:X線検査の2項目だけを満たしている場合においても、遺伝学的検査でFGFR3遺伝子にG380R変異を認めた場合にはこの病気であると診断されます。
どのような治療が行われるの?
軟骨無形成症では、症状に応じた対症療法が中心となります。
低身長に対しては、2022年に、骨端線閉鎖を伴わない軟骨無形成症を効果・効能として、「ボソリチド」(製品名:ボックスゾゴ)が国内で製造販売が承認されました。この薬は、FGFR3の過剰なシグナル伝達を阻害することで、軟骨内骨化による骨形成を促進します。ボソリチドのほかには、成長ホルモンの投与や手足の骨延長のための手術などの方法を組み合わせて治療が行われます。
大孔狭窄によって神経症状が認められる場合には、減圧する手術が行われます。水頭症の場合にも頭蓋内圧亢進症状などが認められる場合には髄液を出すためのシャント手術が行われる場合があります。脊柱管狭窄症に対しては椎弓形成術や固定術などの外科的除圧術が行われることもあります。
また、軟骨無形成症では、肥満が合併症として比較的よく見られることから、心血管系疾患を防ぐために体重や血圧の管理が重要となります。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本で軟骨無形成症の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
- 旭川医科大学病院 整形外科
- 東京大学医学部附属病院 整形外科・脊椎外科
- 国立成育医療研究センター 整形外科
- あいち小児保健医療総合センター 内分泌代謝科
- 大阪大学医学部附属病院 小児科
- 大阪母子医療センター 整形外科
- 兵庫医科大学病院 小児科
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
軟骨無形成症の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。
参考サイト
- 難病情報センター
- 小児慢性特定疾病情報センター 軟骨無形成症
- MedlinePlus
- Genetic and Rare Diseases Information Center
- Online Mendelian Inheritance in Man(R) (OMIM(R))
- GeneReviews
参考文献
- 日本小児内分泌学会 移行期医療支援ガイド 軟骨無形成症