どのような病気?
コロイデレミアは、主に男性に発症し、夜盲症や進行性の視力低下を特徴とする遺伝性疾患です。網膜色素変性症の類縁疾患と定義されています。
この病気の症状は、眼球の裏側で光を感じる組織である網膜や、その外側を覆う「脈絡膜」と呼ばれる組織の萎縮が原因となって引き起こされます。脈絡膜は、血管が張り巡らされた膜で、網膜に酸素や栄養を与える重要な組織です。
この病気は通常、小児期以降の夜間視力が低下する症状(夜盲症)で気が付かれます。夜盲症が幼少期に見られることもあります。病気の症状はゆっくりと進行し、視野が狭くなる(視野狭窄)、視力の低下などの症状が次第に顕著になります。その他に、後嚢下白内障(こうのうかはくないしょう、水晶体の後ろにある後嚢と呼ばれる組織が白く濁る)、嚢胞様黄斑浮腫(のうほうようおうはんふしゅ、毛細血管から漏れ出た液体が黄斑部に貯留して腫れる)などが見られることもあります。
これらの視力障害の進行の程度は患者さんによってさまざまですが、典型例としては、夜盲症から周辺視野欠損へと進行し、40代では視力(中心視力)は良好でも視野が狭く、50代以降から中心視力が著しく低下、成人後期には失明することも多いとされています。
この病はほとんどの場合、男性で発症しますが、保因者の女性でも、10代以降に眼底の検査で網膜と脈絡膜の間にある網膜色素上皮の脱色や萎縮が観察される場合があります。その場合、晩年に夜盲症や視野欠損を発症する可能性があります。
コロイデレミアで見られる症状 |
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高頻度に見られる症状 異常な網膜電図(網膜の電気的反応)、異常な網膜色素沈着、目の異常、視覚異常、近視、夜盲症、視力低下 |
良く見られる症状 進行性の視力低下 |
コロイデレミアの発症頻度は、5万〜10万人に1人と推定されていますが、目や視力に症状が見られる他の疾患と症状が似ているため、まだ診断されていない人がいる可能性があると考えられています。また、この病気は失明全体の原因として約4%を占めると考えられています。
何の遺伝子が原因となるの?
コロイデレミアは、X染色体のXq21.2領域にあるCHM遺伝子の変異により引き起こされることがわかっています。CHM遺伝子は、Rabエスコートタンパク質(REP-1)と呼ばれるタンパク質の設計図となります。REP-1は、Rabと呼ばれる細胞内のタンパク質を細胞膜や細胞内小器官の膜に輸送する役割を持つタンパク質に結合し、Rabタンパク質が膜に接することが可能な状態に変化するのを助けます。
CHM遺伝子の変異により、REP-1タンパク質が失われるかREP-1の機能に異常が生じ、Rabタンパク質が細胞内小器官の膜に結合できないと、細胞内輸送が行われず、細胞が早期に死滅すると考えられます。
REP-1タンパク質には、よく似た類似タンパク質であるREP-2があり、どちらも体のほとんどの部分で働くことがわかっています。これまでの研究により、REP-1が存在しない場合にはREP-2が体の多くの部分でRabエスコートの役割を担うことがわかっています。しかし、網膜組織ではREP-2がほとんど存在せず、REP-1の機能を補うことができません。これらのことがコロイデレミアの進行性の視力喪失と関連するのではないかと考えられています。
コロイデレミアは、X連鎖性劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。CHM遺伝子は、性染色体の一つであるX染色体上に存在する遺伝子で、X染色体を一つしか持たない男性では、この遺伝子に変異のあるX染色体を受け継ぐことで発症します。父親がこの病気である場合、男性である息子には変異は受け継がれませんが、女性である娘には変異のあるX染色体が受け継がれます。X染色体が二つある女性では、変異のあるX染色体を受け継いでも、もう一方の染色体の変異のないCHM遺伝子によってその機能が補われるため、病気を発症せず保因者となります。保因者である場合、通常病気の症状は見られませんが、「どのような病気?」で説明したようにこの病気ではまれに網膜内に小さな細胞欠損が見られることがあり、後年になってから視力に影響が見られることがあります。また、保因者の母親から生まれた息子は2分の1の確率で発症し、娘は2分の1の確率で保因者となります。
どのように診断されるの?
国内では、コロイデレミアの診断基準は確立されていません。米国の遺伝性疾患情報サイト「GeneReviews」によれば、暗順応障害、特徴的な眼底、網膜電図の所見、周辺視野欠損、家族歴、男性であるなどの症状や特徴からこの病気が疑われ、遺伝学的検査の結果からCHM遺伝子に変異が確認された場合に、この病気の診断が確定されると記載されています。
どのような治療が行われるの?
コロイデレミアの治療では、根本的な治療はまだ確立されていないため対症療法が中心となります。
「GeneReviews」によれば、網膜剥離および白内障などに対しては、必要に応じて外科的な手術が行われることがあると記載されています。また、屋外で紫外線を遮るためにサングラスをすることや、食事やサプリメントなどでの適切な栄養摂取、喫煙しない、などが推奨されることがあります。中心視力が特に損なわれ、嚢胞様黄斑浮腫が疑われる場合には、定期的な眼科検査、動体視野検査、スペクトル領域光干渉断層撮影などが実施されることがあります。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でコロイデレミアの診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
- 東京慈恵会医科大学 眼科学講座
- 東京慈恵会医科大学附属病院母子医療センター眼科
- 東京医療センター遺伝診療科
- 慶應義塾大学医学部 眼科学教室
- 聖路加国際病院眼科メディカルレチナ(非手術的網膜治療)外来
- 京都大学大学院医学研究科眼科学教室網膜変性外来
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。
参考サイト
- MedlinePlus
- Genetic and Rare Diseases Information Center
- Online Mendelian Inheritance in Man(R) (OMIM(R))
- KEGG DISEASE:全脈絡膜萎縮症
- orphanet
- GeneReviews
- NORD
- 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究班・網膜色素変性診療ガイドライン作成ワーキンググループ、網膜色素変性診療ガイドライン、日眼会誌120巻12号