カウデン症候群

遺伝性疾患プラス編集部

カウデン症候群の臨床試験情報
英名 Cowden syndrome
別名 カウデン病、PTEN過誤腫症候群、多発性過誤腫症候群、Cowden症候群 など
日本の患者数 500~600人と推計
有病率 20~25 万人に 1 人と推定
子どもに遺伝するか 遺伝する(常染色体優性(顕性)遺伝形式)
発症年齢 多くが20歳代後半までに何らかの臨床所見を生じる
性別 男女とも
主な症状 皮膚や粘膜、その他の臓器に過誤腫が多発し、特定のがん発症リスクが高い
原因遺伝子 PTEN遺伝子、(KLLN遺伝子、WWP1遺伝子)
治療 個々の合併疾患の治療と対症療法
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どのような病気?

カウデン症候群は、過誤腫と呼ばれる、特定の細胞が臓器内で過剰に増殖した腫瘍と奇形の中間的な存在が多発する遺伝性疾患です。過誤腫はがんとは区別されますが、カウデン症候群では、特定のがんを発症するリスクが高いことがわかっています。

カウデン症候群では、ほぼ全員が過誤腫を発症します。過誤腫は、皮膚や粘膜(口や鼻の内側など)に最もよく発生し、このほか、消化管、乳腺、甲状腺、中枢神経、泌尿生殖器などにも発生する可能性があります。欧米の報告では、カウデン症候群の90%以上が20歳代後半までに何らかの臨床所見を生じ、99%が30歳までに皮膚や粘膜に徴候を発症するとされています。また、巨頭症はカウデン症候群の80〜100%で認められます。

カウデン症候群は、乳がん、甲状腺がん、子宮内膜がんの発症リスク増加に関連しています。このほかカウデン症候群の人で確認されているがんは、腎臓がん、大腸がん、悪性黒色腫です。カウデン症候群では、これらのがんを一般集団と比較するとより若い年齢(30~40代)で発症する人が多く、また、生涯に複数のがんを発症する可能性も一般集団より高いとされます。

カウデン症候群では、乳房、甲状腺、子宮内膜に、がん以外の病気の発症もよく見られます。その他、巨頭症や、レルミット・ダクロス(Lhermitte-Duclos)病と呼ばれるまれな良性脳腫瘍などが見られることもあります。まれに、発達の遅れ、知的障害、自閉症スペクトラム障害などにより、社会的なコミュニケーションなどに影響がある人もいます。

カウデン症候群で見られる症状

高頻度に見られる症状

乳がん、大腸ポリポーシス、結膜過誤腫、全身性過角化症、甲状腺腫、皮膚の斑点、皮膚の腫瘍、掌蹠角皮症(手のひらと足の裏の皮膚が異常に厚くなる)、皮膚や粘膜の乳頭腫、皮膚丘疹

良く見られる症状

陰茎の形態異常、甲状腺の異常、皮膚腺腫、運動失調、海綿状血管腫、知的障害、線維腫、溝状舌、発達遅滞、過誤腫性ポリポーシス、脂肪腫、巨頭症、舌肥大、色素性母斑、髄膜腫、粘膜毛細血管拡張症、体のあらゆるところに発生しうる良性または悪性腫瘍、皮下結節

しばしば見られる症状

小脳の形態異常、腎臓の異常、子宮の奇形、自閉症、骨嚢胞、短指症、白内障、細胞性免疫不全、子宮内膜がん、嚢胞を伴う肥大した卵巣、発育不全、甲状腺濾胞がん、女性化乳房、聴覚障害、高口蓋、皮膚低色素斑、頭蓋内圧の上昇、脊柱後弯症、脊柱側弯症、悪性黒色腫、カフェオレ斑(6個以上)、近視、中枢神経系の腫瘍、甲状腺の腫瘍、漏斗胸、腎細胞がん、てんかん発作、低身長

免疫細胞であるBリンパ球の成熟障害により、合併症として種々のアレルギー疾患(気管支ぜんそく、薬物アレルギーなど)や自己免疫疾患(自己免疫性溶血性貧血、橋本病など)を合併することもあります。その他、高率に脂肪肝、脂肪性肝炎及び肝硬変を合併し、肝がんを併発することもあります。

カウデン症候群の臨床診断基準を厳密には満たさないものの、特にがんに関して特徴的な部分が当てはまる人も一部おり、カウデン様症候群と呼ばれます。カウデン症候群も、カウデン様症候群も、どちらも同じ遺伝子の変化で起こることがわかっています。

また、カウデン症候群の特徴は、バナヤン・ライリー・ルバルカバ(Bannayan-Riley-Ruvalcaba)症候群と呼ばれる別の疾患の特徴と重なっています。バナヤン・ライリー・ルバルカバ症候群の人は、過誤腫やその他の非がん性腫瘍も発症します。カウデン症候群の人の中には、バナヤン・ライリー・ルバルカバ症候群と診断された親戚がいる人もいれば、両疾患の特徴を持つ人もいます。これらの類似点に基づいて、専門家は、カウデン症候群とバンナヤン・ライリー・ルバルカバ症候群は、2つの異なる疾患ではなく、一連の重複する特徴を示す「PTEN過誤腫症候群」(これらの疾患の原因遺伝子にちなんで命名)と考えることを提唱しています。

カウデン症候群の正確な有病率は不明ですが、約20~25万人に1人が罹患していると推定されており、国内に患者さんは500~600人いると推計されています。また、カウデン症候群と診断されていない人も少なからず存在すると考えられており、実際にはこれらの推定値よりも多く存在する可能性があります。

カウデン症候群は、小児慢性特定疾病の対象疾病です。

何の遺伝子が原因となるの?

カウデン症候群の原因遺伝子として、PTEN遺伝子(染色体位置:10q23.31)が見つかっています。また、米国立医学図書館が運営する一般向けの医療情報サイトMedlinePlusには、KLLN遺伝子(10q23.31)、WWP1遺伝子(8q21.3)もカウデン症候群の原因遺伝子と記載されています。一方で、日本遺伝性腫瘍学会編の「小児・成人のためのCowden症候群/PTEN過誤腫症候群診療ガイドライン(2020年版)」には、PTEN遺伝子以外の遺伝子は、カウデン症候群の類似疾患の原因遺伝子として記載されています。ここではMedlinePlusを参照して、上記3つの遺伝子について説明します。

PTEN遺伝子から生成されるタンパク質はPTEN酵素と呼ばれ、体内のほとんどの組織に存在し腫瘍抑制因子として機能する酵素です。PTEN酵素は2つの同じ酵素が一緒になることで(二量体化)機能します。PTEN酵素は、他のタンパク質や脂質に付いている、リン酸基と呼ばれる部分を除去する活性を持つ、ホスファターゼという種類の酵素で、この働きにより、細胞が急速に、無秩序に成長・増殖するのを制御しています。この遺伝子に変異があることで、PTEN酵素が正常に働かなくなることが、カウデン症候群における過誤腫の形成や、がんの発生につながるとわかっています。もう少し詳しく言うと、PTEN酵素の機能不全により生じるPI3K/AKT/mTOR経路の活性化などが過誤腫の形成につながり、その他の遺伝子治療が生じてがん化が起こると考えられています。巨頭症や知的障害などの症状に、この遺伝子がどのような役割を果たしているのかは、まだわかっていません。

Re101 カウデン症候群

MedlinePlusには、カウデン症候群の約25%とカウデン様症候群の少数の人は、PTEN遺伝子の変異が原因であると記載されています。また、日本の小児慢性特定疾病情報センターに掲載の情報によると、約80%の患者さんで、PTEN遺伝子の変異が認められるとされています。

まれに、KLLN遺伝子の変異が原因で、カウデン症候群/カウデン様症候群の原因遺伝子が起こる場合もあります。KLLN遺伝子から生成されるタンパク質はkillin(キリン)と呼ばれ、その活性はp53という腫瘍抑制因子によって制御されます。killin自体の機能はまだよくわかっていませんが、細胞が損傷したり不要になったりしたときに、自己破壊(アポトーシス)を起こすところで働き、こうした細胞ががん化するのを防いでいると考えられています。こうした役割から、killinも腫瘍抑制因子の一つと考えられています。この遺伝子に変異があり、killinが正常に作られなくなることが、カウデン症候群/カウデン様症候群の発症につながると考えられています。

また、カウデン症候群/カウデン様症候群のごく一部では、WWP1遺伝子のバリアント(配列の変化)が原因として見つかっています。WWP1遺伝子から生成されるタンパク質は、細胞内で他のタンパク質を分解するときに働く、E3ユビキチンリガーゼと呼ばれる酵素の活性を持っています。このタンパク質は、分解・変化を起こさせるタンパク質にくっついて、分解・変化のための印をつけます。WWP1タンパク質は、特にPTEN酵素にくっついて印をつけ、二量体化を解除することで酵素活性を抑制します。WWP1遺伝子のバリアントにより、通常より活性が強いWWP1タンパク質が作られる場合があり(機能獲得といいます)、このタンパク質が過剰に働くことで、PTEN酵素の腫瘍抑制活性が損なわれ、この病気につながることが、これまでの研究により示唆されています。

この病気のごく一部の症例について、これら3つ以外の遺伝子の変異もいくつか見つかっています。このほか、まだ遺伝的な原因が不明なケースもあります。

カウデン症候群/カウデン様症候群は、常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝します。親がカウデン症候群/カウデン様症候群の場合、その原因遺伝子が子どもに引き継がれる確率は50%です。その他、家族には病歴がないものの、新しく遺伝子変異が起こることでカウデン症候群/カウデン様症候群となる場合(孤発例)もあります。

Autosomal Dominant Inheritance

どのように診断されるの?

「小児・成人のためのCowden症候群/PTEN過誤腫症候群診療ガイドライン(2020年版)」によると、下記の場合にカウデン症候群と診断されます。

家族にカウデン症候群/PTEN過誤腫症候群が存在しない場合

  1. 大基準を3つ以上満たし、そのうち1つが巨頭症、成人型レルミット・ダクロス病、消化管過誤腫のいずれか
  2. 大基準を2つ以上と小基準を3つ以上満たす

家族にカウデン症候群/PTEN過誤腫症候群が存在する場合

  1. 大基準を2つ以上満たす
  2. 大基準を1つと小基準を2つ以上満たす
  3. 小基準を3つ以上満たす

 

<大基準>

  • 乳がん
  • 子宮内膜がん
  • 甲状腺濾胞がん
  • 消化管過誤腫(神経節細胞腫を含むが、過形成性ポリープは含まない)が3個以上
  • 成人型レルミット・ダクロス病(30~40歳代に多く発症する小脳の過誤腫)
  • 巨頭症(97パーセンタイル以上:女性で58cm、男性で60cm)
  • 陰茎亀頭の斑状色素沈着
  • 多発性皮膚粘膜病変:「多発性外毛根鞘腫(3個以上、1個以上は生検で確診)」「肢端角化症(3個以上、掌蹠角化性丘疹/肢端角化性丘疹)」「皮膚粘膜神経腫(3個以上)」「口腔粘膜の乳頭腫状病変(3個以上特に歯肉及び舌)」の、いずれか

<小基準>

  • 自閉スペクトラム症
  • 大腸がん
  • 食道グリコーゲンアカントーシス(3個以上)
  • 脂肪腫(3個以上)
  • 知的障害(IQ75以下)
  • 腎細胞がん
  • 精巣脂肪腫症
  • 甲状腺がん(乳頭がんまたは濾胞型乳頭がん)
  • 甲状腺の構造的病変(腺腫、腺腫様甲状腺腫など)
  • 血管異常(多発性脳静脈奇形など)

PTEN遺伝子の遺伝学的検査は、今のところ保険適用外です。

どのような治療が行われるの?

今のところ、カウデン症候群を根本的に治療する方法はまだありません。そのため、個々の合併疾患の治療と対症療法が主な治療となります。

例えば、消化管の過誤腫が大きくなった場合、内視鏡的ポリープ切除術または外科的手術で切除します。気管支ぜんそくや自己免疫疾患を発症した場合には、それらに対する治療が行われます。知的障害や奇形に対しては、症状に応じた対応が行われます。がんを発症した場合は、手術などの治療が行われます。(一般的ながんの治療については、遺伝性疾患プラスを運営するQLifeの、がん情報メディア「がんプラス」の記事もあわせてご参照ください。)

カウデン症候群に関連するがんは、がん細胞で起きている一連の異常において、PTEN酵素が機能する下流にあるPI3K/AKT/mTOR経路を阻害する薬剤が有効である可能性があり、現在、研究が進められています。

がんは、根治できる病期で発見することが重要です。がんの早期発見のために、定期的に精密検査(マンモグラフィーやMRIなど)を受けるなどの健康管理(サーベイランス)を行っていくことが推奨されています。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本でカウデン症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

また、日本全国の「暫定遺伝性腫瘍指導医」とその所属医療機関は、一般社団法人日本遺伝性腫瘍学会ウェブサイトの「暫定遺伝性腫瘍指導医のリスト」からご確認頂けます。

患者会について

カウデン症候群の患者会は、以下です。

参考サイト

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