デサント・シナウィ症候群

遺伝性疾患プラス編集部

英名 DeSanto-Shinawi syndrome
別名 WAC syndrome、WAC-Related Intellectual Disability、DESSH、WAC-related facial dysmorphism-developmental delay-behavioral abnormalities syndrome
日本の患者数 不明
発症頻度 100万人に1人以下
子どもに遺伝するか ほとんどが孤発例だが、遺伝する場合もある[常染色体優性(顕性)遺伝形式]
発症年齢 乳児期より
性別 男女とも
主な症状 特徴的な顔立ち、筋緊張低下、精神運動発達遅滞など
原因遺伝子 WAC
治療 対症療法
もっと見る

どのような病気?

デサント・シナウィ症候群は、特徴的な顔立ち、乳児期の筋緊張低下、精神運動発達遅滞、眼の異常、行動の異常などの症状が見られる遺伝性疾患です。

この病気の顔立ちの特徴には、四角い顔、広く目立つ額、(左右が)癒合した濃い眉毛、くぼんだ目、さがった目尻(眼瞼裂斜下・がんけんれつかしゃ)、顔の細かい構造がはっきりとしない(粗な顔立ち)、目頭部分を上まぶたが覆う(内眼角贅皮・ないがんかくぜいひ)、低い鼻梁(鼻筋)、球状の鼻、低い位置で後方に回転した耳、 ふっくらした頬などがあります。しかし、これらの特徴が全て見られるわけではなく、軽度でそれほどはっきりしない場合もあるなど個人差があります。

また、ほとんどの場合、新生児期に筋緊張低下や摂食障害などの問題が見られますが、それぞれの症状の種類や程度は個人によって異なります。口の中の口腔筋緊張低下は、摂食困難や発話遅延の原因となることもあります。

行動の問題には、睡眠障害、不安症状、注意欠如・多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラム症などがあり、子供から成人後まで幅広く見られます。

この病気では、視力、呼吸器や胃腸の機能に問題が生じる場合もあります。便秘の問題を抱える人が比較的多いとされます。

精神運動発達遅滞(発達遅滞および知的障害)では、具体的には発話遅延、微細運動(手先の器用さなど)の発達遅延、歩行開始の遅延などが知られています。知的障害の程度は個人差が大きく、正常範囲内から重度までさまざまです。

デサント・シナウィ症候群で見られる症状

良く見られる症状

筋緊張低下(乳児期)、摂食困難(乳児期)、精神運動発達遅滞、視覚障害、行動上の問題、胃腸の異常(便秘、胃食道逆流症など)、呼吸器異常、特徴的な顔立ち、異常な MRI 所見

しばしば見られる症状

てんかん、肥満

非常にまれに見られる症状

腎臓の異常、逆さ乳首、難聴、足や手の異常(短指症など)

デサント・シナウィ症候群の正確な発症頻度はや患者数はわかっていませんが、100万人に1人よりも少ない頻度であると推定されています。

何の遺伝子が原因となるの?

デサント・シナウィ症候群は、10番染色体上の10p12.1と呼ばれる領域に存在するWAC遺伝子の変異によって引き起こされることがわかっています。WAC遺伝子が設計図となって作られるWACタンパク質には、他のタンパク質と結合する領域である「WWドメイン」および「コイルドコイル(らせんの形の繰り返しがくるくる巻いているような構造部分)」があります。こうした部分を介してWACタンパク質は、RNF20/40というタンパク質と結合します。RNF20/40は、遺伝子の転写を調節するタンパク質「ヒストンH2B」の機能に関わる「ユビキチン化」という変化に関与しており、さまざまな遺伝子の調節に関わると考えられています。しかし、WAC遺伝子の変異や欠失がこの病気の症状を引き起こす仕組みについてはまだよくわかっていません。

また、デサント・シナウィ症候群の発症には、このWAC遺伝子のハプロ不全と呼ばれる現象が関わっています。ヒトの遺伝子は、それぞれ両親から由来する2つのコピーを持っており、その一方に異常があっても、もう片方の正常な遺伝子のみで十分に機能する遺伝子もありますが、片方だけでは不十分な遺伝子がありそれをハプロ不全と呼びます。WAC遺伝子の場合も、片方の遺伝子の変異や欠失などで、もう1つの正常タンパク質のみではうまく機能を補うことができず、この病気が引き起こされるとされています。

107 デサント・シナウィ症候群 仕組み

デサント・シナウィ症候群は、多くの場合親からの遺伝ではなく孤発例であるとされます。また、この病気が遺伝する場合、遺伝形式は常染色体優性(顕性)遺伝となります。この遺伝形式では、両親のどちらかがデサント・シナウィ症候群の場合、子どもが発症する確率は50%です。

Autosomal Dominant Inheritance

どのように診断されるの?

デサント・シナウィ症候群について、まだ確立した診断基準は設けられていません。

米国のワシントン大学を中心としたスタッフが運営している遺伝性疾患情報サイト「GeneReviews」によれば、この病気を示唆するような所見として、発達遅延もしくは知的障害に加えて、

1)乳児期の筋緊張低下(口腔筋緊張低下を伴う場合もあり)

2)新生児期の哺乳困難や胃腸の異常(胃食道逆流、便秘など)

3)行動異常(不安症状、ADHD、自閉症スペクトラム症、睡眠障害、攻撃性など)

4)呼吸器系の問題(感染症を繰り返す、喘息、異常な呼吸パターンなど)

5)視覚異常(皮質視覚障害、斜視、屈折異常など)

の1)から5)の5つの症状が1つ以上見られる場合にこの病気が疑われ、遺伝学的検査により、WAC遺伝子に変異が確認された場合に診断が確定されると記載されています。

どのような治療が行われるの?

デサント・シナウィ症候群を根本的に治療する方法はまだなく、発達遅滞や知的障害、行動異常、摂食障害などの症状に合わせた対症療法がとられます。

また、乳幼児期の栄養状態が最適になるような食事の管理や、発達や教育の必要性の定期的なモニタリング、不安症状、ADHDなどの行動に関する評価など適切に見守ることが必要になります。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本でデサント・シナウィ症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。

米国のデサント・シナウィ症候群の患者支援団体(財団)で、ホームページを公開しているところは、以下です。

 

 

参考サイト

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

このページ内の画像は、クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。
こちらのページから遺伝に関する説明図を一括でダウンロードすることも可能です。