遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん

遺伝性疾患プラス編集部

遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの臨床試験情報
英名 Epilepsy of infancy with migrating focal seizures
別名 EIMFS、Malignant migrating partial seizure in infancy (MMPSI)
発症頻度 不明、英国の調査では出生100万人に2.6~5.5人
日本の患者数 推定225人
子どもに遺伝するか 不明
発症年齢 新生児期から
性別 男女とも
主な症状 てんかん発作、精神運動発達遅滞
原因遺伝子 KCNT1、SCN1A、KCNQ2など
治療 対症療法
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どのような病気?

遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんは、けいれん発症までの発達が正常な生後6か月未満の乳児におこるてんかん性脳症です。てんかん発作は部分発作(焦点発作)と全般発作に分けられます。また、てんかん発作を発生させる脳の部位を焦点といいます。遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんは発作中に焦点が脳のさまざまな部位に移動して、多焦点性の発作が生じます。てんかんは脳の神経細胞に発生する激しい電気的な興奮によって生じます。焦点の移動に伴い、さまざまな部位(眼球、上下肢、顔面、口唇、口角など)の間代(筋肉の収縮と弛緩を反復する状態)や部分強直、流涎(よだれを流すこと)などがみられます。遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんは重度の精神運動発達遅滞を生じることがあります。

初発症状は片側の焦点運動発作で、約半数の患者さんでは強直間代発作を生じます。発作焦点部位の移動に伴って、眼球や頭部の偏位、眼瞼のぴくつきや眼球の間代、上下肢や顔面・口角の間代や強直、咀嚼、強直間代発作などが生じ、無呼吸、顔面紅潮、流涎などの自律神経症状を伴います。特に無呼吸発作は初期には約半数、経過中には4分の3の患者さんで認められます。発作は次第に頻度を増して、2~5日間にわたって頻発することがあります。ほぼ持続的に頻発する発作は1か月から1歳くらいまで続き、発達の遅れが生じます。その後は、発作は減少します。脳波では、初期には背景波の徐波化(脳波の基礎的な活動が通常よりも低下し、徐波が現れる現象)のみですが、やがて多焦点性棘波(棘波は脳波で急激に立ち上がり、急激に下がる尖った形の波)が現れ、発作中に焦点が対側または同側の離れた部分に移動するようになります。血液・生化学的検査には特異的所見はありません。画像検査では初期には異常なく、進行すると脳萎縮を示します。

遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんは、英国の全国調査では、年間発症率は出生100万人に2.6~5.5人、有病率は小児の100万人に1.1人とされています。世界では約100症例が論文で報告されています。国内の患者数は225人と推定されています。

遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんは指定難病対象疾病(指定難病148)および小児慢性特定疾病に指定されています。

何の遺伝子が原因となるの?

遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの患者さんの約70%にKCNT1、SCN1A、KCNQ2、SCN2A、SCN8A、TBC1D24、SLC25A22、SLC12A5などの遺伝子の異常が見つかっています。中でも神経細胞における活動電位の調節などに関与するナトリウム依存性カリウムチャネルの一部を形成するKCNT1タンパク質の設計図となるKCNT1遺伝子の異常が最も多く、27~50%の患者さんで認められます。変異したKCNT1遺伝子によって産生されたKCNT1タンパク質によって、脳の神経細胞の興奮の制御が困難になることが遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんに関与すると考えられています。

遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんが親から子へ遺伝するかどうかについては十分にわかっていません。米国国立医学図書館が運営する医療情報サイトMedlinePlusでは、遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんは、親からの遺伝ではなく、遺伝子の突然変異(新生変異)によるとされています。また、フランスのOrphanetという希少疾病に関するサイトでは、遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの多くはKCNT1遺伝子の突然変異によるが、親がKCNT1遺伝子の変異を有する場合には常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝し、関与する遺伝子によって、常染色体優性(顕性)遺伝、常染色体劣性(潜性)遺伝X連鎖性遺伝となるとされています。日本の難病情報センターでは、遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんは常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝する可能性が示唆されており、遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの遺伝については、一定の見解が得られていないようです。常染色体優性(顕性)遺伝形式は、両親のどちらかが本疾患だった場合、子どもは50%の確率で発症します。一方、常染色体劣性(潜性)遺伝形式の場合、両親がともに遺伝子の片方に変異を持つ(保因者)場合、子どもは4分の1の確率で発症します。また、2分の1の確率で保因者となり、4分の1の確率でこの遺伝子の変異を持たずに生まれます。

Autosomal Dominant Inheritance

Autosomal Recessive Inheritance

どのように診断されるの?

国内では以下の診断基準が作成されています。

A.症状

1.発作中に発作焦点部位が移動する焦点起始発作(多くは運動発作)。

2.しばしば無呼吸、顔面紅潮、流涎などの自律神経症状を伴う。

3.発作は群発ないしシリーズをなして頻発する。

4.発症前の発達は正常であるが、重度の精神運動発達遅滞を残す。

B.検査所見

1.生理学的検査:初期にはてんかん性波はまれで、背景波が徐波化を示す。その後、多焦点性棘波が出現する。発作中には脳波焦点が対側または同側の離れた部分に移動し、一つの発作時発射が終わる前に次の発作時発射がはじまる。

C.鑑別診断

鑑別する疾患は、新生児期のけいれん、急性脳炎・脳症、ピリドキシン依存症、ピリドキシンリン酸依存症、アルパース(Alpers)病、乳児の良性焦点てんかん、家族性または非家族性良性新生児けいれん、家族性良性乳児けいれん、早期ミオクロニー脳症。

<診断のカテゴリー>

Definite(確定):生後6か月未満の児にA1とB1を認め、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの

どのような治療が行われるの?

遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんに対する確立された治療法はありません。一般に難治性で、通常の抗てんかん薬、ステロイド、ケトン食、ビタミン剤は無効なことが多いとされています。神経細胞における過剰な電気的活動を抑制し、てんかんに用いられる臭化カリウムによる有効例が報告されています。また、KCNT1遺伝子の異常に対し、KCNT1の部分的な拮抗薬である抗不整脈薬キニジンの有効例が報告されています。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本で遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。

参考サイト

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